
今にも画面から飛び出してきそうな、カラフルでポップな人外キャラクターたち。イラストレーター・キャラクターデザイナーのNelnalさんは、インディーゲームにも縁の深い方です。Toby Fox氏が開発中のRPG『DELTARUNE』にゲストキャラクターデザインを提供。そのほか、開発中のリズムアクションゲーム『Ratatan』ではキャラクターデザインを担当しました。ゲーム愛も深いNelnalさんのクリエーションの秘密に迫ります。
――自己紹介をお願いします。

Nelnal(ネルナル)と申します。元々ゲーム会社でイラストやデザイン業を務めておりました。それからイラストレーターとしての活動を始め、現在は主にキャラクターデザインやキービジュアルなどのお仕事全般をさせていただいています。ゲーム会社から一般企業まで、いろいろなクライアントさまとお仕事をご一緒しています。
――Nelnalさんといえばキャラクターデザインのイメージが強いですが、ほかの分野でも活動されていますか。
Nelnalさん:
メインがキャラクターデザイン、その次にイラスト案件が多いですね。他にはアニメーションの絵コンテやフィギュア、立体商品のお仕事で3Dモデリングも時折しています。
――Nelnalさんはご自身の創作キャラクターをフィギュア化されていますが、そのモデルもご自分で制作されていたんですね。
Nelnalさん:
はい。モデリングについては自分でフィギュアを作る機会もあるので、そういった活動のためにもスキルを身につけて活動の場を広げられたらと思っています。
――ゲーム会社にお勤めされていたときは、3Dモデルを担当されていたのでしょうか。
Nelnalさん:
少しだけ3Dモデルをやらせていただいた時期がありましたが、すぐ部署が変わりました。その後は背景のシンプルなデザインやアニメーション用素材やUI、モンスターデザインをさせていただいていました。
――個人での創作活動についても教えていただけますか。
Nelnalさん:
個人活動としては最近、『NELNAL作品集 MUTANT FRIENDS』(以下MUTANT FRIENDS)という書籍を玄光社さまから発売させていただきました。普段目にする身近なものをキャラクター化した作品集となっています。別のシリーズとしては『SOULMONITOR』というタイトルの作品も裏で少しずつ制作を進めています。創作としては『MUTANT FRIENDS』と『SOULMONITOR』の2つを同時進行で進められないか検討しています。SNSでフォロワーさまに喜んでいただけそうな、かつ自分が楽しめるイラストを日々できるだけたくさん投稿できたらいいなと思っています。


――『SOULMONITOR』は最近、Xで専用アカウントが開設されましたね。こちらは漫画での展開が主軸になっていくのでしょうか。
Nelnalさん:
そうですね。まだ企画段階なので明確にお伝えできる内容ではないのですが、今後少しずつ確実に漫画を作っていきたいというビジョンがあります。趣味と仕事を同時進行しているので、なかなかどちらかに極端に時間を割くということができていない状況ではありますね。少しずつメリハリをつけていけたらいいなと思っています。
――お仕事をしながら創作活動をされているバイタリティーが凄まじいですよね。
Nelnalさん:
とんでもありません。私の周囲の方々は信じられない筆の速さで活動されているので、私もそういった方々に少しでも近づけたらなと思っています。
――普段の制作環境について教えていただけますか。
Nelnalさん:
はい。イラスト制作は主にAdobe Photoshop(※1)を使っています。他にもCLIP STUDIO PAINTや、ラフを描くときはペイントツールSAI(※2)を使うこともありますね。
ペイントツールSAIは一番最初に触ったお絵かきソフトというのもあって愛着があり今も使っています。自分の好きなように調整して作ったペン先の設定が入っているというところも使い続けている理由かもしれません。iPadで絵を制作する際はCLIP STUDIO PAINTを愛用しています。
(※1)Photoshop
写真や画像の加工・色の調整、 複数画像の合成、テキストの追加や装飾などがおこなえるツール。
(※2)ペイントツールSAI
株式会社SYSTEMAXがリリースするペイントツール。2008年に製品版を発売した。
――ほかにもお使いのソフトはありますか。
Nelnalさん:
あとはベクター形式のイラストも描くので、そのときはIllustrator(※3)を活用しています。グッズ制作のときはほぼIllustratorですね。ほか、アニメーションを制作するときはAfter Effects(※4)を使っています。
(※3)Illustrator
ポスターやチラシなど、平面的なグラフィックデザインに用いられるソフトウェア。
(※4)After Effects
モーショングラフィックスソフト。映像に炎や雨などのエフェクトを加えたり、ロゴやキャラクターをアニメーションさせたりと、多彩な映像表現を強みとする。
――ソフト面について伺いましたが、リアルの机の上はどんな状態でしょうか。
Nelnalさん:
いろいろとカラフルなものに囲まれております。グッズ制作をするための文具や道具、部品が多いですね。海外製のキーホルダーパーツなど集めながら「こんなのを使ったら可愛いんじゃないか」とか、商品開発をするためのちょっとした小物がいろいろと机の隣に置いてあったりします。
ほかには、モノタロウさんという通販サイトで買った小物入れを使わせていただいています。あとはぬいぐるみやいただいたものから個人的に欲しくて飾っているものまで、いろいろですね。それからクリエイターさんのソフビ作品を集めるのもすごく好きで。そういったお気に入りの作家さんの小物もたくさん飾っています。(この写真の裏にショーケースがありそこにずらりと並んでいます。)それから、大きな家具はIKEAの商品を愛用しています。

――お話を聞いているだけでも楽しくなるようなデスク環境ですね。
Nelnalさん:
繁忙期になると写真の机の隣にあるパソコン周りがメモまみれになる事がありまして、このインタビューにお答えしているタイミングがまさにメモが山盛り状態でPC周りはお見せできませんでした……。タスク管理をするためにデスクにメモを貼って、終わったものから剥がしていまして。データでもスケジュール表がありますが、PCのすぐ見えるところに貼りつけつつ、終わったものを剥がしていくと個人的にすごく達成感がありモチベーションになるんですよね。
――お忙しいNelnalさんが創作とお仕事を両立されている秘密が垣間見えた気がしますね。
ゲームについてのお話も伺っていきたいと思います。普段はどんなゲームを遊ばれますか。
Nelnalさん:
ゲームは休憩時間の合間によく遊びます。時間が限られていて遊びたいもの全部は遊びきれないので、遊びたいリストがどんどん山積みされています……。よく遊んでいる作品としては『あつまれ どうぶつの森』をちょこちょこと遊んだりしています。あとは最近発売された『スーパー マリオパーティ ジャンボリー』や『ピクミン(全シリーズ)』でしょうか。『マリオパーティ』『ピクミン』シリーズはそこそこガチ勢なので、初代から歴代全種類を買って遊んでいました。(とはいえ達人レベルではないのですが……。)あとは、インディーゲームだと『UNDERTALE』『Cuphead』『Mouthwashing』など。気になるゲームは沢山あります。
――任天堂のゲームがお好きなんですね。
Nelnalさん:
はい! 任天堂のゲーム、特に『マリオ』関連はほぼ遊んでいるかもしれません。任天堂さんのゲームはめちゃくちゃ大好きで、子どもの頃からずっと遊んでいるのでかなり影響を受けています。マリオファミリーをはじめとして、独特な唯一無二のデザインが大好きですね。シンプルで洗練されたキャラクターばかりで本当に尊敬しています。
そしてあまり表では言っていないんですが、ルイージがめちゃくちゃ好きで……。部屋に緑色の物もよく置きますが、絶対ルイージの影響だと思います(笑)
――なぜルイージに愛着をもたれたのでしょうか。
Nelnalさん:
なぜでしょうね。4~5歳くらいの物心ついたころからルイージが好きで、ずっと追いかけているのであまり記憶がなく。はじめはヨッシーが好きだったんですけどね。
――緑だから……?
Nelnalさん:
最初の入りはそうだったかもしれません。ヨッシーが好きだったのは恐竜が当時マイブームだったのも大きいです。ルイージは人生初めての「推し」で、キャラクター性のギャップではまったと記憶しています。マリオファミリーのなかでも唯一無二の人間味があるというか、優しくて可愛かったり、ところどころ闇のある部分を垣間見られる瞬間があったりですとか、そういうところが本当に好きです。作品を通して色々知れば知るほど好きになっていった感じがします。
――Nelnalさん的にはどの作品のルイージが「推し」でしょうか。
Nelnalさん:
『ルイージマンション』シリーズが特に好きです。それとやっぱり映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』ですね。可愛かったです……!
でも、ルイージに限らずギャップのあるキャラクターにはすごく魅力を感じます。普段とても元気そうなのに、ちょっと静かになると何かを抱えてそうみたいな。『おそ松さん』の十四松(※5)みたいなキャラクターがすごく大好きですね。得体の知れないキャラクターに弱く。
(※5)『おそ松さん』の十四松
『おそ松さん』は2015年から2016年にかけて放送された、赤塚不二夫の漫画『おそ松くん』を原作とするテレビアニメ。十四松は主人公の6人兄弟のうち五男で、ハイテンションなキャラクター。
――Nelnalさんの創作キャラクターも、元気な子かと思いきやダークな顔も描かれていたりして、ギャップが魅力的ですよね。
Nelnalさん:
ギャップ萌えがあまりにも好きすぎて、すぐそうなってしまう傾向がありますね。すごく可愛く描けたと思っても、ギャップを見せたくてすぐ元気のない表情も描いてしまったり。
イケメンや綺麗なキャラクターを描いても中身を残念にしたりですとか。
――ユーザーからすると、いろいろな表情が見られるのが嬉しいです。
Nelnalさん:
やはり二面性があるとすごく生き生きしていいなと思います。そのキャラクターの中でも理想の自分と受け入れたくない自分を持っている感じが。キャラクターデザインでも同じで、可愛いモチーフを扱っていても中身まで可愛いとは限らない、というキャラクターづけをしたりしています。誰から見てもなんの変哲もないモップに、あえて自分なりのカッコよさを考えてみたりとか。そういう意外性を求めている部分はありますね。

――Nelnalさんのキャラクターづくりにおいて、やはり「意外性」はキーワードになってくるのでしょうか。
Nelnalさん:
根幹の部分になると思います。
モチーフを選ぶときに、もちろんお仕事としては「お客様が喜ぶ」要素をリサーチして取り入れたりはするのですが、個人の創作としてはそういう基準はあまり考えていません。生活のなかで、見慣れたものの隠れた良さから着想を得ることが多いですね。みんながカッコいいと思ってないものを自分なりに推せるような形に描いて意外といけるな、みたいな形に持っていくことができたら面白いなと思います。
――クライアントワークと個人の創作では、個性を出すバランスのとりかたも異なりますか。
Nelnalさん:
会社員時代は、人の作品の絵柄や作風に合わせて絵を描いたり作業したりする事がメインでした。現在はその時と真逆な事をしているので、絵柄がふらついているなと思う事が多々あります。誰かの作品のビジュアルアートなどを手がける際は「個性を出してもいいのかな?」というのが未だにずっとあって。毎回クライアント様に慎重に伺っています。
最近は非常に嬉しいことに「絵を見てNelnalさんだと分かりました」とおっしゃってくださる方が増えてきましたが、少し前はただただ「ちょっと変わった発想をする人」みたいなアイデンティティだったので、目立った分かりやすい絵柄は持ち合わせていないと感じていました。
個人の創作については自分の絵柄を統一しようと奮闘していますが、お仕事となるとついつい、作品を大事にし過ぎてそっくりに描いてしまいがちかもしれません。
――創作とお仕事は分けて考えているのですね。
Nelnalさん:
クライアントワークで一番難しいのは「あなたらしいイラストで〇〇を描いてください」というご依頼が来た時ですね。「私の絵柄で作品の良さが半減しないだろうか」と不安になることがあります。もちろん、「良いものを作ろう!」と言う意気込みは常にあるのですが。私の絵と原作の中間が理想です。
――モチーフの素材を生かしたい気持ちと自分の個性を求められている使命感でせめぎ合いがある感じでしょうか。
Nelnalさん:
そうですね。素材の良さを失わせたくないという気持ちが非常に大きいのですが、クライアントさまのご依頼内容が私のテイストにアレンジしてくださいという事であれば、全力でご要望にお応えできたらと思います。よく描きながら「〇〇(キャラクター名)はもっとカッコいいのにな……。こんなんじゃだめだ」と頭を抱えたりはします。
――とても難しい課題ですね。その問題意識をもって取り組まれているNelnalさんは、クライアントとしてとても信頼のおけるクリエイターさんだと思います。
Nelnalさん:
そう言っていただいて非常にありがたいです。クライアントさまの意図やゴールはどこにあるのかというのを最初に慎重にヒアリングして、頼んでよかったと思っていただけるような姿勢を大事にしています。安心して要望を話せるイラストレーターでありたいですね。自由にやらせていただいたときが一番自分らしさを発揮できるのは歯がゆい所ですが。
――クリエイター魂とプロフェッショナリズムの割合は難しいですよね。
Nelnalさん:
個性を出すバランスはクライアントさまの要望内容次第ですね。

――ルイージから始まり、仕事論まで伺いましたね。
Nelnalさん:
すごく話が逸れてしまいましたね(笑)推しの話に戻ると、先ほど「緑が好きなのかも」という話がありましたが、ほかの作品でも『ケロロ軍曹』(※6)とか、ワーナーブラザーズのマービン・ザ・マーシャン(※7)、BEN10(※8)という作品の宇宙人も好きで。やっぱり緑が多いなぁと思います。得体のしれないものが好き+緑色が好きという一貫性は昔から変わらないのかもしれません。青も好きなんですが。
(※6)『ケロロ軍曹』
日本の漫画家、吉崎観音氏による作品。1999年から現在に至るまで連載中。地球侵略をしにきた宇宙人ケロロ軍曹が日本の家庭に居候する物語。
(※7)マービン・ザ・マーシャン
ワーナー・ブラザースが製作するアニメーションシリーズ『ルーニー・テューンズ』に登場するキャラクター。緑のヘルメットを被った火星人。
(※8)『BEN10』
カートゥーン ネットワークで放映されたヒーローアニメーション。ごく普通の10歳の少年、ベンジャミン・テニスン(ベン)が10種類のエイリアン・ヒーローに変身できる腕時計「オムニトリックス」を使い、宇宙からの侵略者と戦うストーリー。
DELTARUNEのあのキャラクターたち誕生秘話
――TobyFoxさんとは元々『UNDERTALE』のファンアートを描かれていたころから交流があったのでしょうか。
Nelnalさん:
『UNDERTALE』の一般人ファンでした。X(旧Twitter)でちょこちょこファンアートを描いていたりしてファン活動をしていた時期がありましたが、そのころはTobyさんとは何も面識はなく。
そのあと一次創作をするようになってから、いろんなクリエイターさんと関わりを頂ける機会が増えました。2017~2018年ごろに、『MUTANT FRIENDS』のようにものをキャラクター化するというイラストを発表するようになって、すごく海外の方から面白がっていただいた時期があったんですね。そのときにかなり海外のアーティストさんからフォローをいただく機会があり。その中にTobyさんのお名前を見つけて、嬉しすぎてすごくパニックになったのを覚えています。
『DELTARUNE』のチャプター1が公開された頃に私もコミュニティのファンの1人としてわいわいと盛り上がっていたのですが、それから1年くらい経ったころに突然TobyさんからDMをいただきまして。そこで初めてお仕事を通して交流がありました。
まとめますと、一般のファンだったところに突然ご連絡をいただいたというかたちになります。人生何が起きるか本当に分からないなと思いました。

――『UNDERTALE』のファンアートではなく、一次創作のイラストがきっかけで繋がったというのは面白いですね。
Nelnalさん:
そうですね、とても光栄に思います。タイミング的には一次創作を重点的に始めた時期でしたので。Tobyさんが作るキャラクターにとてもシンパシーを感じていましたので一緒にお仕事させていただいた時はびっくりするくらいやり取りがスムーズでした。
――それでは『DELTARUNE』のキャラクターデザインについてお聞かせください。スイート・キャップ・ケーキについて、Tobyさんのお話では「音楽系のキャラクターを作ってほしい」と依頼したところNelnalさんが3つのバリエーションを提案し、3人とも採用になったという経緯が発表されています。もともと3案を出されたときに、どういう意図があってそれぞれをデザインされたのでしょうか。

Nelnalさん:
欲張って3つ採用してくれ! という意図はなかったのですが、普段お仕事させていただく際はクライアントさまからお題を出されたときに、複数案を出すようにしているんですね。言葉や参考資料だけでは汲み取り切れない部分があるからです。「可愛い」という言葉のニュアンスも人によって全く違ったりする事がありますし。「思いついた! これです!」と1案だけ渡すのではなくて、最初にたくさん提案して、その中からクライアントさまのイメージに近いものをブラッシュアップしていくというかたちをとっています。
それと同じようにTobyさんにもご提案しようと思いました。「音楽といってもいろいろあるので、どうしようかな。キャラクター性や設定もまだできてないしな」と思った結果、3体のベースを作ってイメージに近いものがあるかな、とお渡ししたら全部採用された形です。すごく有難いですね。

――スイート、キャップ、K_Kははそれぞれ個性的なデザインですが、提案するうえで描き分けたポイントはありますか。
Nelnalさん:
はい! 今のスイート・キャップ・ケーキとは全然違うイメージで作っていました。最初はキャラクターの性格に関する資料がなかったので、敵キャラクターとしてちょい悪にするか、愉快なやつにするか、ミステリアスな感じにするかのいずれかで考えていました。それでいくとキャップが愉快系で、スイートがお茶目系の憎めないやつ、K_Kはすごくミステリアスで、ダブステップを奏でながらダンスしたり笑いながら邪魔してくるみたいなイメージをしていたんです。実際のゲームではキャラクター設定が真反対のところにいって大笑いしました(笑)
――ゲーム中に会って「あれ?」となったんですね。
Nelnalさん:
頭の中でK_Kは、スタイリッシュでニヒルに笑う感じのキャラクターだったんですね。でも「こんなに可愛くなって! よかったね!」と思いましたし、想像の中のK_Kよりこっちの方がずっと好きです。
――ここまでお聞きした話だと、スイート・キャップ・ケーキのキャラクターづけや性格に関しては、Nelnalさんはまったく関与されていないサプライズ情報だったんですね。
Nelnalさん:
そうですね。デザインをお渡しして、ゲームができあがってやっと見せてもらえたというかたちですね。デザインが3人とも採用されたと知ったのも、ゲームが完成した直後だったんですよ。もともと「どうしよう、全部欲しいなあ」というお話は聞いていたんですけど、それでまさか全員採用されるとは思っていませんでした。
――インディーゲームならではの柔軟さですね。
Nelnalさん:
インディーゲーム業界の方とお仕事するときは、この柔軟さが最高に楽しいですね。お渡しするものに関してはクライアントさまにぜひ自由に調理していただきたいというスタンスでいるので、非常に楽しかったです。
――Tobyさんならではのスタイルという感じもしますね。
Nelnalさん:
Tobyさんのネーミングセンスもキャラクターの作り方もいつも脱帽しています。楽しくて、深くて、本当に大好きです。企画書を読んでいる際も終始口角が上がりっぱなしでした。データの受け渡し速度やフィードバックも早く、堅苦しくなりすぎず、作る人の良いところをふんだんに活用してくださるので、もし自分の創作をするとき誰かに発注する機会があったらTobyさんと同じスタイルでできたらと思いました。仕事している感じがしなかったですね。楽しすぎて。
――お仕事とはまた違う楽しさがありますよね。
Nelnalさん:
本当ですね。お金をいただくのが申し訳なくなっちゃうぐらいでした。
――もう1人、タスクマネージャーについても教えてください。彼女についてはどのような発注があり、どういった意図でデザインされたのでしょうか。
Nelnalさん:
実は彼女に関しては100%私のデザインではないんです。スイート・キャップ・ケーキと同じように、Tobyさんから「こういったイメージのキャラクターが欲しい」という企画書をご用意いただいて、そこから着想を得て4パターンくらいベースを作りました。これを土台としてお渡しするので、あとは自由に変えても大丈夫というかたちでやりとりをして、今のタスクマネージャーのビジュアルになりました。こちらは決まった後に描いたデザイン資料です。

――そういったコラボレーションのような作り方もあるんですね。
Nelnalさん:
TobyさんがOKならなんでもありです。ドット絵で「タスクマネージャーはこういうデザインです」というベースがあって、そのあとに私が少し更新させてもらった流れですね。
――改めて実際に『DELTARUNE』を遊ばれたとき、キャラクターが動いているのを見てどう思われましたか。
Nelnalさん:
感動を通り越して驚愕としかいいようがないくらいの衝撃を受けました……。少なくとも10周は軽くしてると思います。本当に夢なんじゃないかと思ってはゲームで確認してをしばらく繰り返していました。
『Ratatan』に込めた遺伝子と革新
――『Ratatan』は『パタポン』(※9)シリーズの精神的続編とされていますが、『パタポン』ではRolitoさんのアートワークが強烈でした。そこからNelnalさんがバトンを受け取って、引き継いだ部分と変えていった部分を教えてください。
Nelnalさん:
これは本当に悩みました。『パタポン』は素晴らしい作品ですし、根強いファンがたくさんいることや世界観が完璧に洗練されているのを前もって知っていましたので、そういった方々から「これは違う」という意見が絶対に挙がるだろうということも念頭に置いていました。そうしたなかで新しさを取り入れつつ、元の『パタポン』の良さも取り入れつつというバランスをとれないか寝不足になるくらい考えていました。発注いただいた内容では新しさ、私のイラストのテイストを活かしてほしいというご要望もありその塩梅の難易度が高く。
最初はRolitoさんの画風を受け継いで、主線のないフラットなイラストのコンセプトアートを描こうとしたんです。でも、それは『パタポン』に寄せすぎということでやめよう、というかたちになりました。そこから、もっと新しさを取り入れるために沢山色を入れて試行錯誤しました。
(※9)『パタポン』
ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から2007年にPSP向けに発売されたゲーム。4拍子のリズムに合わせたアクションで、目玉の生物パタポンを導いて冒険するリズムアクションゲーム。Nelnalさんが携わる『Ratatan』は『パタポン』の精神的続編とされる。
――過去作の良さを継承するために、どんな部分を残しましたか。
Nelnalさん:
『パタポン』から残したところはやっぱり目玉の部分ですね。企画書の段階で小谷さん(『Ratatan』クリエイター)が大事にされている部分としての発注ももちろんあるのですが、目玉を強調したり、パタポンの頭に3本羽がついているところをまつげにしてみたり、しっかりパタポンの面影が残るかたちでお客様にお届けすることを重視して作成しました。沢山色と装飾を入れつつもしっかり黒を入れながら立体的になりすぎないように意識し、かけ離れた印象になっていないかは慎重に考えていました。
――かなりせめぎ合いがあって、今のかたちに落ち着いたんですね。
Nelnalさん:
既存のタイトルで何か作る場合は、その作品のあるべき姿を私はかなり重視します。それまで作品が作り上げてきたイメージを大事にしたいと考えていて。時に既存のイメージを思いっきり変えて方向転換するというギャンブルに乗り出ても良いかもしれませんが、それはお客様のニーズを網羅して初めてできる事だと思いましたので、今回は可能な限り引き継いだ作品の要素を壊さず、要望にある新しさを重視して作りました。
――お客様というのは、『パタポン』が好きだった人も、新規のプレイヤーもということでしょうか。
そうですね。その両方に「これならいいよね」と言ってもらえるようなラインを探りました。そのためもとの影絵を意識して、黒をたくさん使っています。あまりカラフルにしすぎずに、ポップすぎても良くないなと思っている部分ですね。ギザギザした丸、三角、四角、というモチーフのはっきりした造形を意識して作りました。
――いかにクライアントやプレイヤーに喜んでいただけるかを考えた結果ということですね。
Nelnalさん:
願わくば、「どっちも違いがあって良い!」と思っていただける事が何より嬉しいなと思っています。
――では改めて、『Ratatan』を楽しみにしているユーザーに「ここを見てほしい!」という推しポイントがあれば教えてください。
Nelnalさん:
やっぱり「目玉」に注目してほしいですね! 『パタポン』のように『Ratatan』も目がかわいい! って言ってもらえたら嬉しいです。アニメーションも新しい表現になっていて、リッチにいろいろなところが動くカラフルな仕様になっているパワーアップ感を楽しんでいただけたらと思っています。
Nelnalさんの構成物
――Nelnalさんのご趣味を教えてください。ただし、「残りHP100のときに打ち込む趣味」「残りHP50のときに楽しむ趣味」「残りHP1のときにする趣味」に分けて教えてください。
Nelnalさん:
仕事と趣味が兼ね合いになっている部分があり、元気全開がなかなか難しいのですが、力が有り余るときは裏で漫画のネームを描いています。時折本を読むことが癒しの趣味です。元気がないときは料理をするのが好きですね。いろんなメニューをちゃんとレシピ通りにできたっていう達成感で元気になります。やり遂げて、かつ美味しいのがいいですね。
――HPが1のときもポジティブな趣味に打ち込んでいらっしゃるんですね。
Nelnalさん:
そうですね。あとはもう寝ることです。本当に体力と精神がすり減ってダメなときはとにかく寝ます。寝るか散歩するかですね。
寝るのが一番の回復になるというお話をしましたが、私の今の活動名にも由来しているんです。「Nelnal」には意味が2つあって、1つはむかし私が初めて作った創作の名前の由来からきているのですが、もう1つは「寝れば何とかなる」の略称でもあるんです。「寝る=Nel」「なんとかなる=nal」ですね。社会人生活で一番しんどかった時期に、創作もできないし仕事もうまくいかないみたいなとき、呪文のように「寝るなる寝るなる」と繰り返してました。寝れば何とかなるさん、私の本名かもしれません! 創作も何かと寝ている絵を描く事がしばしばありました。

――何だか、聞いていて元気が出てきました。
Nelnalさん:
趣味に関してはずーっと子どもみたいなクリエイターでありたいなと思います。いくつになっても。しっかりするところはしっかりして、遊ぶところは遊んでってできたらいいなって思ってます。私の身近にいるクリエイターさんはそんな感じなので、すごく憧れているんですよね。硬くなり過ぎずメリハリは大事だと思います。
――先ほどお話に出てきたTobyさんのスタンスにも通じますね。
Nelnalさん:
ですよね。これは別の海外にお住まいのお仕事仲間の方と交流した時の話ですが、普段頭を使う難しい仕事をしていてもオフのときの無邪気さが半端なくて。鬼ごっことかもしますし、プールで遊ぶ時も本当に子供のように遊んで超絶楽しかったです。趣味や楽しみに関しては年齢は気にするべきではないと思いました。
――クリエイターとして影響を与えた方は数多くいらっしゃると思いますが、ここで人生に影響を与えた作品を教えてください。
Nelnalさん:
すごく悩みますね。まず1つ目が任天堂さんのゲームで、特に『スーパーマリオ』シリーズ作品ですね。あと『ケロロ軍曹』。こちらはすごく影響を受けました。あと『アンパンマン』にもめちゃくちゃ影響を受けていると思います。そして『パワーパフガールズ』(※10)。カートゥーンネットワークのアニメ作品にすごく影響を受けています。それから湯浅政明監督の『カイバ』(※11)というアニメーション作品。こちらもかなり影響を受けていますね。たくさんあって数え切れません。書ききれないのでこれくらいで、って感じしょうか。『ケロロ軍曹』と『スーパーマリオ』シリーズは私の青春をほとんど費やしたと言っても過言ではないくらい。
(※10)『パワーパフガールズ』
クレイグ・マクラッケン原作の漫画、テレビアニメ作品。日本では2000年代にテレビ東京系列、カートゥーン ネットワークで放送された。実験から生まれた3人の幼稚園児の女の子がスーパーヒロインとして戦うストーリー。
(※11)『カイバ』
2008年にWOWOWで放送されたアニメーション作品。記憶のデータ化ができるようになった世界で、記憶喪失の男カイバが自身に秘められた謎を追うストーリー。文化庁メディア芸術祭第12回 アニメーション部門 優秀賞を受賞した。
――Nelnalさんを構成する2大要素ですね。
Nelnalさん:
それから『風のクロノア』シリーズ(※12)も追加していただけますか。こちらもかなり影響を受けていますね。世界観が本当に素敵で。最近Nintendo Switchでリマスター版の『風のクロノア 1&2アンコール』が出ましたが、ゲームボーイアドバンスで出た『クロノアヒーローズ 伝説のスターメダル』の方はリメイクが出ていないんです。最近はリバイバル作品もたくさんあるので、ぜひ来てくれないかなと思っています。
また系統ががらっと変わりますが『とっても!ラッキーマン』(※13)もめちゃくちゃ好きですね。現代に復活してほしいなとずっと願ってるんですけど……。ガモウひろし先生のあの自由すぎるデザインが本当に大好きで。子どものスケッチブックから飛び出してきたみたいなデザインがとっても好きなんですよね。カツ丼風の髪型ではなく本当にカツ丼が載ってたりとか、そういうところが面白すぎて。自分には絶対描けない憧れがありました。
(※12)『風のクロノア』シリーズ
バンダイナムコエンターテインメントから発売されるアクションゲームシリーズ。第1作『風のクロノア door to phantomile』はPlayStation向けに1997年に発売された。
(※13)『とっても!ラッキーマン』
日本の漫画家ガモウひろしによるヒーローギャグ漫画。1993~1997年に発表された。運の良さを武器とするヒーロー「ラッキーマン」と、その仲間が活躍するストーリー。
――なかなか狙ってできない表現ですよね。
Nelnalさん:
キャラクターのデザインを考える時必ず1つにまとめるために加工したり添削作業を挟むので、私も1回素材丸ごと使って加工禁止にして作ってみたらどうなるのか検証してみたいですね。あんなに可愛いデザインは自分にはハードル高いですが……。
――ここまで挙げていただいた作品は、なんとなくNelnalさんの面影を感じるものばかりですね。
Nelnalさん:
上記の作品の数々をお話すると「やっぱり!」となると思います。楽しんで作っているものについてはよりそれが顕著だなと感じますね。本当に創作がちゃんとストーリーになって、できあがったらどういう反応をされるのか、気になります。
だから人外って素晴らしい!
――Nelnalさんのキャラクターは個性的なデザインだけでなく、設定が練りこまれているのも印象的です。キャラクターの設定はどのように考えられていますか。
Nelnalさん:
創作をする際は、作られたキャラクターとして考えるより「そこに存在しているもの」というかたちで捉えることが多いですね。意思があり、こういう風に生涯を過ごすであろう、と考えます。最初の着想を得るときは、ふらっと生活していて目に留まったものをもとにします。たとえば「見た目がトゲトゲしているから性格もトゲトゲしていそうだな」とか、子どもみたいな目線で創作を考えているんですが。そこから連想ゲームのようなかたちで性格や詳細な設定を固めていきます。
たとえば「魚」というモチーフだったら海だったり、水に関連するものだったら何でも紐づけられそうだな、という風にどんどん「これといえばこれ」というかたちでベースを作っていくことが多いでしょうか。キャラクターを作ったら作りっぱなしということも多々あるんですが、設定を考えるところまではワンセットになってますね。創作の中でキャラクターを作って「この子はきっとこういう風なんだろうな」と想像するのが非常に楽しい部分です。そうやって設定が徐々に固まっていって、そこにちょい足しでストーリーを追加するのであれば、「モチーフはこうだけど、こういう設定があれば面白いんじゃないかな」という風に楽しんでいます。「キャラクターを作ったけど設定が思いつかない」ってことはほぼないかもしれません。
人外の素晴らしいところは、選ぶモチーフにもよりますがほとんどの場合何もかもが自由で面白い発想を入れられる事でしょうか。縛りが無いのが本当に楽しいです。

――頭の中にキャラクターが生まれて勝手に動く感覚でしょうか。
Nelnalさん:
はい。でも不思議なのはキャラクターは自分のものであるようで自分のものではないという感覚が常にあります。実際の子供のように我が子でありながら生涯はその子のもの、みたいな。設定など色々考えていくうちに夢の中で生きて動き回る姿をたびたび朧気に目撃することがあるのでそう思うのかもしれません。
――創作キャラクターひとりひとりに人生があるんですね。
Nelnalさん:
そんな感じです。
――Nelnelさんが思う人外の定義は何でしょうか。
Nelnalさん:
シンプルに人間じゃなかったら皆人外と思って見ています。

――Nelnalさんとしては、「こうじゃないと人外じゃない」という縛りはないということでしょうか。
Nelnalさん:
はい! 勝手な私の解釈なんですけどね。ただ、選んだ形によってはあるべき姿もあるのかなと思います。
――Nelnalさんイズムがあふれる言葉ですね。
Nelnalさん:
何を愛でてもいい世界っていうところで、すごく住みやすいなと思っています。こうあるべきっていうのがほとんどないのが心地よくて。自由に縛られずに楽しめる空間という部分で、人外って素晴らしいなと思うんです。

――今後もNelnalさんが生み出されるキャラクターたちの活躍が楽しみです。ありがとうございました。
Nelnalさんの活動の最新情報はXからチェックできます。