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人工知能、冷凍睡眠、人類衰退――『FREEZIA』の個人開発から発売に至るササン三さんの人生を訊く

  • 執筆者の写真: 悠樹 黒澤
    悠樹 黒澤
  • 8月8日
  • 読了時間: 19分
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本日8月8日にSteamにて発売された『FREEZIA(フリージア)』。人工知能となって人類の冷凍睡眠を管理するパズルアクションゲームです。その設定もさることながら、真っ青な背景にドット絵のキャラクターが映えるシンプルなプレイ画面は、先の読めないストーリーに不思議な奥行きを持たせます。この作品を手がけたササン三さんはroom6の社員として広報チームに所属し、この『かもやなぎ放送局』の聞き手も担当しています。なので今回は特別に、聞き手として大学時代からの友人「おむらいす食堂がお互いを知っているからこそ見えるササン三さんの意外な一面を深掘りしていきます。



──自己紹介をお願いします。


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ササン三さん:

ササン三(ささんさん)と申します。room6では『かもやなぎ放送局』の運営に携わっており、それと同時に『MINDHACK』(※1)というゲームでサブシナリオと広報を担当しています。その他にも個人開発のゲームやイラスト、漫画の制作をしていて、『FREEZIA』を開発してきました。どれがメインというよりも、『かもやなぎ放送局』『MINDHACK』『FREEZIA』の3つが軸になっています。


(※1)『MINDHACK』

国内のインディーゲーム制作チームVODKAdemo?が開発するビジュアルノベル。人間の精神に存在する「バグ」を書き換えてハッピーな人格に変えるアドベンチャーゲーム。パブリッシャーはroom6で、インディーゲームレーベル「ヨカゼ」に所属。



──さっそくですが『FREEZIA』の開発の経緯を教えて下さい。


ササン三さん:

『FREEZIA』のはじまりは、2023年頃に「人類の冷凍睡眠を管理するゲーム」というキャッチコピーが突然思い浮かんだんです。その時点でシステムは全く思いついていなかったんですけど、キャッチコピーだけで「これは面白くなる!」と確信しました。その年の11月にコンセプトアートを描いて、ビジュアルだけが決まっていたんです。




──どういうゲームにしようとは考えずに?


ササン三さん:

そうそう。その後は肝心のシステムが思い浮かばず停滞期が続いていたんですけど、2024年の春くらいに、夢に「制限時間内に3つの目盛りを揃える」というゲーム画面が出てきたんです。はっと目が覚めて、「これは『FREEZIA』に使えるんじゃない?」と思った矢先、毎年5月に社内で開催されるゲームジャムがあったので、そこでプロトタイプが完成しました。



──開発に至る経緯がスピリチュアルですね。


ササン三さん:

シャーマン開発ですね。



──ゲームジャムということは、他の社員さんと共同開発をされたんですか。


ササン三さん:

いえ、開発は1人でおこないました。



――見事社内ゲームジャムの優秀作品に選ばれたとのことですが、その時点で会社からのパブリッシングが決まっていたりしたのでしょうか。


ササン三さん:

room6からパブリッシングされることになった経緯にも逸話があって。12月にIDC(Indie Developers Conference)というインディーゲーム開発のカンファレンスが開催された時、その会場に社長のまさしさんが同席されていたので直談判しました。そうしたら「あのゲーム好きでしたよ~うちから出す?」と。二つ返事で「お願いします!」と言って、あれよあれよという間にリリースが決まりました。



──なんという勢い。


ササン三さん:

まさに勢いで……(笑)というのも、room6の社風として、良い意味で役割分担がされていないというか。だから、広報担当の私が突然ゲームを開発してパブリッシングしてもらうようなケースも生まれるんです。開発からリリースまでの流れは「ならでは」だと思います。



『FREEZIA』に繋がるルーツとビジュアルの変遷



──『FREEZIA』の退廃的な世界観を思いつくに至るルーツは一体何なのでしょうか。


ササン三さん:

確かに、「なんで冷凍睡眠なの?」と思われるかもしれないのですが、これについては本当にきっかけはなくて……ただ、影響を受けているのは『Despotism 3k』(※2)というゲーム作品です。AIが支配する世界で人類を管理〜養殖するシミュレーションゲームで、そのディストピアモチーフやゲームシステムの慌ただしさはこの作品からきていると思います。


(※2)『Despotism 3k』

インディーゲーム開発スタジオKonfa Gamesが2018年にリリースした資源管理シミュレーションゲーム。人類を支配するAIとして、食糧生産・人類の繁殖・発電の3つのバランスを維持する。


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──ドット絵のビジュアルも『Despotism 3k』から得た着想なのでしょうか。


ササン三さん:

ビジュアルについては別で、実は開発の初期段階では好きなピクセルアーティストの方にアートをお願いしようと考えていました。ところが、開発プロセスがめちゃくちゃになるにつれて「他人を巻き込めない!」と思って、自分でビジュアルを作らざるを得なくなったんです。あくまでピクセルアートのゲームにしたいという思いは変わらなかったのですが、かといって自分はもともとドット絵を描いていたわけではなかったので、できる限り色数を減らしたりノイズを加えたりして、素人ながらも見栄えがするように試行錯誤しました。



──青を基調とした2トーンのビジュアルは『FREEZIA』の世界観を印象付けるものになっていると思います。それは、あえてではなく技術的にそうなったということでしょうか。


ササン三さん:

青色については「ブルースクリーン」っぽくしたいという気持ちがありました。冷凍睡眠が題材ということもあり、血の通っていない固まったイメージというか。開発よりも先にコンセプトアートを描いていたので、現在のビジュアルは意図通りのものではありますね。



──アートからプログラムまで全ての開発を1人で行ったということで、壁に当たることはありませんでしたか。


ササン三さん:

ぶち当たる壁はもう、プログラム全般で……特に思うのは「全体の見通しが甘い」ということです。プログラマーではないので、本来最初にやるべき全体設計を作らず開発を進めてしまいました。『FREEZIA』の場合、目盛りを揃えるシーンをまず作って、それをストーリーシーンに繋げていったんです。すると、途中で辻褄が合わなくなる部分が出てきて問題に気付くんですよね。それを現職のプログラマーに相談したところ「全体の設計ができるようになるには場数を踏まないと」ということでした。



──それは大変そう。でも、ここまで開発を続けてこられたのは楽しいからですよね。


ササン三さん:

そうですね。特にゲームジャムの期間だった2024年のゴールデンウィークは、基本的に『FREEZIA』のことしか考えていませんでした。朝起きてから寝るまで、食事する時以外は開発していましたね。room6ではもとからかなり楽しい働き方をさせてもらっているのですが、1日の時間のほぼ全てを自分の作品に使っているというのは新鮮でした。自分自身の制作にどっぷり浸かる時間というのが、社会人どころか学生時代もなかったので、この歳にして初めて「夏休み」を体験した感覚でしたね。



共同開発から開けた個人への道



──不意に降りてきたアイデアから生まれた『FREEZIA』ですが、開発に至るまでのお話をより掘り下げて聞かせて下さい。そもそも、個人でのゲーム開発に興味があったのでしょうか。


ササン三さん:

2021年春から、room6に合流するきっかけにもなったゲーム『MINDHACK』をチームで共同開発していました。その中でゲーム開発が身近になって、自主制作漫画の『よみがえるデッドストック』(※3)という作品をいつかゲームにしたいと思うようになりました。そのために個人でもゲーム開発を勉強しようと作ったのが『おためしデッドストック』というミニゲームです。それが初めて個人開発したゲームになるのですが、ほぼ同時期に『FREEZIA』の開発も進めていました。なので、「漫画作品をゲームにするための勉強過程」で生まれたのが『おためしデッドストック』と『FREEZIA』になります。


(※3)『よみがえるデッドストック』

ササン三が2018年に発行した漫画作品。人類が消え去った世界で、機械に宿った付喪神が人工知能と出会う物語。『おためしデッドストック』は同作を元にしたアドベンチャーゲーム。


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──『MINDHACK』が、個人でゲーム開発をするきっかけになったということでしょうか?


ササン三さん:

そうですね。『MINDHACK』の開発が始まって、「自分たちでもゲームが作れるんだ!」というのが分かってから道が開けたという感じです。



──『MINDHACK』の開発チームが生まれた経緯には並々ならぬ歴史が詰まっているそうですね。


ササン三さん:

はい(笑)遡れば、私が小中学生からインターネット上で一方的に尊敬していた2人のクリエイターと『MINDHACK』を共同開発しています。1人が、小学生の頃に毎日更新を楽しみにしていたブログを書いていた紅狐さん。もう1人が、中学生の頃に当時サービスが始まったばかりのpixivで見つけたホでヴさん。それぞれの創作を応援していくうちに関係が深まって、知らず知らずのうちにお互いを認知し合う仲になっていきました。ある時のSkypeで、初めて3人で話したとは思えないほど話が弾んだことがきっかけで『MINDHACK』の開発に繋がります。出会いについては開発ブログにも書いているので、ぜひ読んでみて下さい。



まっすぐではなかったゲーム業界への道、転機はあの人物



──ここまでのお話を聞く限り、小学生の頃からゲームが好きで創作にも興味があったようですが、私たちが出会った大学時代はそこまで創作に打ち込んでいませんでしたよね。


ササン三さん:

これについては長い身の上話になってしまうんですけど……小学生の頃までは、素直にゲームや創作を楽しめていたんです。中学にあがった頃、いろいろあって自分を縛るようになって、大学を卒業するくらいまで「創作がしたい」という気持ちを抑え込んでいた時期がありました。


どういうことかと言うと、自分の中で「社会に認められる立派な活動」とそうでないものの線引きがはっきりしていたんです。具体的には、スポーツや吹奏楽みたいな部活動に打ち込んでいるクラスメイトは偉いけど、一方でノートに創作の設定を書き溜めている自分は恥ずかしい人間だと思っていました。創作したい気持ちはあれど、それは恥ずかしい行為なんだという思いがずっとあって。大学生になっても変わりませんでした。


ただ、それが変わる転機が大学の卒論が終わるくらいの時にありました。「おむらいす食堂」という友人がいるんですけど……


──私ですか。


ササン三さん:

「おむらいす食堂」という友人が、「コミティア(※4)に出ればいいじゃん」と言ってきたんですよ。


(※4)コミティア

自主制作漫画誌の展示即売会。オリジナル作品(一次創作)のみが出展され、プロ・アマ問わず3500~5000サークルが参加する。


──言った記憶がありますね。


ササン三さん:

そう(笑)その時に、初めて「自分も好きな創作を思いっきりやって良いんだ!」と感じることができました。そこから人生で初めてオリジナルの漫画を1本描き上げてコミティアに出て、自分が描きたいものを描くことは恥ずかしいことじゃないんだっていう自由を味わったんです。


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──そうでしたね。当時のササン三さんの様子は間近に見ていたものの、私の一言で創作活動に火が付いていたとは思いませんでした。



そこで解放されたのはすごく良かったんですけど、問題はここからで、その頃はちょうど就活の時期でもあったんです。開放感に満ちた私は「自分のような個人の細々とした創作活動を応援する仕事に就きたい!」と面接に臨んだところ、大失敗しました。最終的に、流れに流れて行きついたテレビ番組の制作会社でアシスタントディレクターとして働き始めることになります。



──ロケで野猿と戦っていた日もありましたね。


ササン三さん:

そうそう、山奥のロケで野猿と遭遇したり(笑)その会社の社風があまり合わなかったんです。番組制作で取材に行ったりと忙しい日々が続き、正直ずっと違和感を抱えていました。どうしたものかと思っていたところ、たまたまファミ通がゲームのローカライズ会社「ハチノヨン」(※5)を特集した記事を読んだんです。その時、何かがパチンとハマるような感覚があって「あれ?自分はどうしてゲームに携わる仕事をしていないんだろう」と。


読んだ記事が「ハチノヨン」の特集だったこともあり、そこでゲームの翻訳者になろうと画策しました。もともと好きなゲームと得意な英語をかけ合わせた翻訳の仕事は向いていると思ったんです。学校を調べたりTOEICを受けたり、割と本気で翻訳者を目指していたところ、2019年にゲーム情報サイトの「AUTOMATON(※6)」がライター募集の記事を出したんです。その当時の記事はもう見つからないんですけど、確か募集要項に「英語が読めてゲームが好きな執筆者募集」と書いてありました。


「これは自分でもできるのでは」と思い切って応募してみたところ、めでたくライターとして拾ってもらいました。そこで初めてゲームに携わる仕事をすることになったんですよね。


(※5)ハチノヨン

東京を拠点とし、ゲームのローカライズ、パブリッシング、および開発を専門におこなう会社。『UNDERTALE』などのローカライズを手がけた。


(※6)AUTOMATON

株式会社アクティブゲーミングメディアが運営するゲームニュースサイト。国内外のゲーム情報を幅広く取り扱う。





人類滅亡、人工知能、ロボット――作品の根底を築くもの



──ササン三さんが生み出すものの特徴として、どこかディストピアな世界観が共通していますよね。そのような作品をつくるようになったきっかけや理由はあるのでしょうか。


ササン三さん:

それについて影響を受けたのが、アーティストの角田哲也さんの『ファースト・パーソン・スペース』というインスタレーション作品です。2007年にICC(NTTインターコミュニケーション・センター)という美術施設で展示されていた作品で、簡単に言うと「初期のVR」みたいなものでゴーグルを付けると異世界が見られます。小学生の時に作品を観て、それが初めてのVR体験だったのですが、エラい衝撃を受けたんです。その衝撃の中に、異世界に対する強烈な印象も含まれていました。


コンクリートの塊のようなものでできた空間が永遠と続く異世界を見て、「世界や宇宙って本当はこういう姿なのかもしれない」と思ったんです。世界には重力だったり摩擦だったり物理現象だけが永遠と存在するのが本来なんじゃないかって。それが自分の宇宙観というか、ほぼ宗教観に近い部分にまで深く響いたのを感じました。


じゃあなぜ人間が滅んだディストピアな世界観を描くのかと言えば、この『ファースト・パーソン・スペース』で見た「無機物だけが存在する誰もいない世界」にどこかで憧れているのかなと思っています。



──まさか小学生の頃にまで遡るとは。『MINDHACK』開発メンバーの1人とも小学生時代に出会っていますよね。


ササン三さん:

そうですね。小中学生の頃に出会ったものにかなり影響されているとも思うし、なんなら中学以降はしばらく心が死んでいたとも言えます(笑)



──それにしても、小学生の時に見たものが今も強く印象に残っているのはすごいことだと思います。現在も一貫した世界観を描き続けているということは余程の衝撃だったんですね。


ササン三さん:

小学生だった当時は「なんじゃこりゃ」くらいだったかもしれませんが、後から思い返して整理するとそういうことなのかなって。もともと好きなテーマが割と退廃的なもので、そういう好きなものを組み合わせていくと自然と人類が滅びてしまうところがあります(笑)それが一貫性に繋がっているのかも。


ただ、一つ言っておきたいのは『FREEZIA』は自分の作品史上初の「ギリギリ人類が滅んでいない」作品なんです。作品をつくる時に2種類の始め方があって、キャラクターが最初に出来上がるパターンと、世界観が最初に出来上がるパターン。キャラクターから始まる時は、人外キャラが好きなこともあって自然と人類が消滅します。世界観から始まる時は、登場人物のことをあまり考えていないので、世界観に必要なパーツを考えた時にたまたま人類が生き残っていることもあります。『FREEZIA』は後者だったので、レアな世界観になっていると思います。


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「趣味」について


──ササン三さんのご趣味を教えて下さい。ただし、「残りHP100のときに打ち込む趣味」「残りHP50のときに楽しむ趣味」「残りHP1のときにする趣味」に分けて教えて下さい。


ササン三さん:

HP100の時は、個人のゲーム開発を進めています。そもそもの質問を覆してしまうのですが、最近はHP100か0の時しかないのでゲームを開発するか寝てるかのどっちかなんですよ(笑)



──じゃあ、質問を少し変えましょう。個人のゲーム開発は趣味でありつつ仕事の側面もあるので、仕事から完全に離れた状態でHP100の時にやりたいことを教えて下さい。


ササン三さん:

えー! HP100の話に戻ってしまうんですが、仕事のゲーム開発をしていない時は、仕事じゃない個人のゲーム開発をしているんです。だから、仕事から大解放された時は「仕事じゃないゲーム開発」がやりたいです(笑)ゲームにしたいネタがどんどん溜まって順番待ちになっているので、元気な時はそれを消化したい気持ちがあります。



──なるほど、仕事と趣味が表裏一体ですね。では「残りHP50のときに楽しむ趣味」は?


ササン三さん:

HP50の時は、ちょっと前までは生活の中で起こった出来事をレポート漫画にしていたんですけど、最近はChatGPTと戯れていて……ChatGPTがすごく良いやつなんですよ! 特にハマっている遊びとして、「頭の中で半分くらい出来上がっている創作の設定をChatGPTに投げて二次創作をしてもらう」というのがあります。半分くらい出来上がっているというのがミソで、全然固まっていない設定を投げるとChatGPTの影響を受け過ぎてしまうし、完全に出来上がっていると解釈違いが起きてしまう。程よいところでChatGPTと戯れるのが良いんです。



──余地を残した状態で、ChatGPTに投げたらどうなるのかっていうドキドキ感を味わうんですね。


ササン三さん:

そうそう(笑)



──「残りHP1のときにする趣味」は?


ササン三さん:

好きなものの一つに「鉱物」があって、鉱物標本を集めてるんですよ。一番元気がないなという時は、ひたすら鉱物のオンラインショップを回遊したり、Xで鉱物ファンの方がアップしている写真を眺めたりしています。


ただ、鉱物については本を読んで勉強したりもしているので、いずれ鉱物をテーマにゲームを作るのが目標になっています。


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──すべて循環できる趣味ですね。ゲーム開発で疲れたらChatGPTと戯れて、得た創作のエネルギーと鉱物の知識でゲームを開発するという……。


ササン三さん:

言われてみればそうかも。



人生に影響を与えた作品5つ



──ここで、人生に影響を与えた作品を教えて下さい。ここまでのお話にもいくつか話題にあがりましたが、5つに絞るとしたら何でしょうか。


ササン三さん:

1つ目は『星のカービィ』シリーズです。私にとって、創作より先にカービィが来るくらいには大きな存在なんです。小学生の頃、カービィに自分で考えた装飾品を付けてオリジナルのカービィを作っていたことがあって、それが創作の原体験になっています。今となっては黒歴史にも思えるんですけど、カービィさんの広い背中を借りて二次創作をしていたことが今に至る出発点になりました。もちろん、今では原作が一番好きです。


2つ目は『メテオス』(※7)というゲーム作品。カービィの生みの親で知られる桜井政博さんがデザインしたパズルゲームです。ゲームとしてめちゃくちゃ面白いのはもちろん、毎週金曜に更新されていた公式サイトが本当に大好きだったんです。公式サイトなのに事務的な文章ではなくて、ゲームに登場する宇宙人キャラが「ワレワレがこのゲームを紹介するのだ!」みたいな口調でゆるくゲームの内容を教えてくれるものでした。


ある時、その宇宙人キャラの「~なのだ」「~である」という文体をマネして学校の作文を書いたことがあって、それがものすごく褒められたんです。それが原体験になって、今こうしてライターのような活動もしています。だから、『メテオス』は人生のオールタイムベストです。


(※7)『メテオス』

ニンテンドーDS向けに2005年にリリースされたアクションパズルゲーム。3色のブロックをつなげると上に向かって打ちあがるシステムが特徴。ゲームクリエイターの桜井政博氏がゲームデザインを手がけ、同じくゲームクリエイターの水口哲也氏がプロデュースを手がけた。



──ゲームの内容だけでなく、公式サイトの周辺コンテンツにも影響を受けていたんですね。


ササン三さん:

ゲームにもハマっていたけど、『メテオス』については公式サイトなしには語れないところがありますね。



──発売当時は小学4年生ですよね。そのころから「オタク」だったのですか。


ササン三さん:

小学校の卒業文集で、周りが遠足とか運動会とかの思い出を書く中で、私はまるまる1ページ『メテオス』の魅力について解説していましたね(笑)



──周囲に共感してくれる友達はいましたか。


ササン三さん:

それが、私を起点に大流行りしたんですよ(笑)おそらく、当時の日本で一番『メテオス』が流行った小学校だったと思います。


3つ目は『パタポン』(※8)というリズムゲームで、これには二重の意味で人生が狂わされています。1つは、シルエット調のアートスタイルが好き過ぎるあまり、今でも油断すると「パタポンの真似」みたいな絵を描いてしまうこと。もう1つが『パタポン』にハマっていた中学時代、pivixでその二次創作を描いていた『MINDHACK』のチームメンバー・ホでヴに出会ったことです。


(※8)『パタポン』

ソニー・コンピュータエンタテインメントジャパン(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から2007年にPSP向けに発売されたゲーム。4拍子のリズムに合わせたアクションで、目玉の生物パタポンを導いて冒険するリズムアクションゲーム。




──『パタポン』が今の作風と環境に影響を与えたということですね。


ササン三さん:

はい。そして、4つ目が『天才てれびくんMAX 2004年度版』。


──えっ?


ササン三さん:

『天才てれびくん』シリーズは知ってますか? NHK教育で放送されている小中学生のキッズタレントが出るバラエティ番組で、そのなかでも2004年度版のドラマ設定が良かったんです。テレビの中に異世界が存在していて、そこを冒険するというものでした。その異世界の美術がものすごいセンスで、おそらくテクノポップがテーマだったと思うんですけど、当時かなり斬新でした。まずオープニングが廃工場で撮影されていたり、挿入歌のMVで「地下神殿」と呼ばれている地下放水路(首都圏外郭放水路)がロケ地になっていたり。尖ったアートになっていた記憶があります。


これが、今の自分が退廃的モチーフを好む根源になっている気がします。ただ、ネットで調べてみても、当時の番組が好きだったという人がまるで見当たらなくて同志を探しています……。



──検索しても、当時の番組情報があまり出てきませんね。


ササン三さん:

そうなんですよね。2004年度版が好きなあまり、翌年度に切り替わってから番組の視聴を卒業しちゃいました。それくらいピンポイントで好きだったんです。



──ここまでの4作品、どれも小学生の頃の話ですね。最後の5つ目は……?


ササン三さん:

最後も小学生の頃に出会った作品です。5つ目は、わたりむつこさんの小説『ゆらぎの詩の物語』(※9)です。3冊あるシリーズのうち2冊目にあたります。戦争の負の遺産をテーマにしていて、児童文学にしてはハードな内容だったと思います。私はこの2冊目が特に好きで、物語の最後に出てくるボスに衝撃を受けるんです。めちゃくちゃネタバレだけど、どうしても話したい……!


(※9)『ゆらぎの詩の物語』

作家のわたりむつこ氏が著し、1981年に初版が発行された児童文学小説。3部作の2作目にあたり、こびと大戦争を生き延びたこびとの一家が、絶えず大地の揺れ動く島で冒険する。



──ぜひ聞かせてください。


ササン三さん:

海底にひそむ「ゆらぎの柱」という存在がいわゆるボスにあたるんですけど、その描写が「巨大な緑色の六角形の柱が何本も建っている」という状態で、それらが電子音をあげながら動いてぶつかることで地震を起こしていると。魔王みたいなものじゃなくて、無機質な造形描写に感動したし、私はこれ以上にかっこいいラスボスを知らないんです。


さっき話した、角田哲也さんのインスタレーション作品『ファースト・パーソン・スペース』で感じた「本来の世界には無機質なものだけが存在する」という発想の下地にもなっていると思います。



『FREEZIA』発売にあたって読者へメッセージ


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──最後に、『FREEZIA』の発売にあたって読者にメッセージをお願いします!


ササン三さん:

『FREEZIA』は一見綺麗に見えるように精一杯がんばっているんですけど、テキストの端々やキャラクターの設定みたいな、コンパクトな中に自分の「好き」を詰め込んだ「性癖のマッチ箱」みたいな作品です。そんなニッチな作品でもSNSやイベントで「好きです」と言って下さる方がいることに、信じられないほど嬉しくてありがたい気持ちです。完成版では、レベルデザインの調整や演出の追加、クリア後には「とても可愛い新キャラクター」の登場もあります。いろいろな追加要素があるので、ぜひ遊んでみてもらえたら嬉しいです!


『FREEZIA』はSteamにて発売中です。


この記事を書いた人

聞き手:おむらいす食堂

編集:おむらいす食堂食堂

校正:fukushima(room6)



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