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“癖(ヘキ)”を、個性をアクセルに。巨大娘ゲーム『SAEKO』開発者に訊く「自意識の乗り越え方」



大きな女の子は好きですか? それもあなたを手のひらに載せてしまうような、怪獣級に大きい女の子……。『SAEKO: Giantess Dating Sim(以下、SAEKO)』は、なぜか人形サイズまで縮められてしまった主人公が、自分の何十倍もある大きさの少女・冴子と日々を過ごすホラーアドベンチャーゲームです。開発を手がけるSAFE HAVN STUDIOのkyp(キプ)さんは巨大な女の子を愛する「巨大娘」ファン。そんなkypさんに、ディープな嗜好と美学を伺いました。



――自己紹介をお願いします。



kypさん:

SAFE HAVN STUDIOというサークルでゲームを作っているkypといいます。今は『SAEKO』というアドベンチャーゲームを作っていて、そこでプログラムやシナリオだったり、音楽と一部のイラストを担当しています。


――SAFE HAVN STUDIOは3名で活動されているんですよね。


kypさん:

そうですね。もともと大学の友達と同級生みたいな感じで集まって。ずっと3人だけですね。


――大学でもゲーム制作はされていたのでしょうか。


kypさん

ちょっとその辺が複雑で。大学生のときはもっと大きな創作サークルみたいなところにいたんです。そのころの共同制作というと、ゲームに関係ない小さなコンテンツなら作ったんですけど、一緒にゲームを作るとかはやっていなくて。SAFE HAVN STUDIOとして3人で何かやろうよと言ったのは、自分が『SAEKO』の開発をしたいと思い始めたときですね。大学を卒業して何年か経って、自分が一人ひとりに「ゲームサークルとしてやりませんか」と声をかけて立ち上げたという経緯になります。


――なるほど。ではその3人で現在開発されている『SAEKO』について改めてご紹介をお願いできますか。


kypさん:

『SAEKO』はめっちゃ「奇抜なゲーム」とかいろいろ書かれているのですが……(笑)ジャンルとしては多分、アドベンチャーゲームでもありホラーゲームでもある感じですね。あらすじとしては、リンという普通の人間の主人公がいるのですが、あるときなぜか人形くらいの大きさまで小さくなってしまうんです。そこでたまたま冴子という少女に拾い上げられて、彼女の家で過ごすことになるというストーリーです。




――『SAEKO』は6月に待望のデモ版を配信されていましたね。反響はいかがですか。


kypさん:

そうですね。反響は本当に、事前に想定していなかったくらい大きかったです。感想やファンアート、配信もやってくれたりとか、いろんなコメントもいただきまして。その量もすごく多くてびっくりしているのに加えて、内容についてポジティブなコメントが多かったんです。


『SAEKO』は去年の6月くらいにいちど、1分くらいのティザームービーを公開しました。それもいろいろなところに取り上げていただいて、パブリッシャーと契約できたりしたわけですが、そのときは「変わってるゲーム」というか、設定の奇抜さやメインビジュアルの強さですごく評価をいただいていたんですよね。


でも体験版を出したらそれ以外の部分で、たとえばゲームシステム・音楽・シナリオの流れなど、今までティザーでは触れられていなかった部分でも、全体的にいいというコメントをいっぱいいただいていて、かなり有頂天になっていますね(笑)


――「巨大な女の子に飼われる」という題材が目を引きがちですが、そのフックだけに留まらないハイクオリティなデモだったと思います。ところでいわゆる「巨大娘」ジャンルのファンだった人と、そうではない人の反響だと、割合はどんな具合でしょうか。


kypさん:

感想の数としては、やはり巨大娘ジャンルのファンが多い印象ですね。もともと『SAEKO』を気になってくれていた人は「巨大な女の子が好きで、そういうコンテンツを求めていた」という人が多いので、その界隈の人は体験版を出す前からフォローしてくれて、ちょいちょい応援してくれたりしていました。なのでコメントの量でいうと、もともと巨大娘のジャンルが好きですよという人が多いかなという印象はあります。


逆にそれ以外はほぼないかなと正直思っていたんですけど、意外と反応をいただけたことに驚いています。一番分かりやすいのは配信者さんで、巨大娘とか全然知らないけどホラーゲームの1つとしてやってくれて、最後に「よかった」というコメントをいただいたり。あとは公式にコメントを送るというほどでもないけど、気になっているゲームの1つとして挙げてくれてるとか。巨大娘以外のジャンルの人にもゲームとして認識してもらえて、しかも結構な人に気に入ってもらえてるのかなっていうのはありがたいですね。


――反応のすそ野が広がったんですね。しかし、デモ版にはシナリオ上ショッキングな展開も含まれていたと思います。そのあたりの受け止められ方はどうでしょうか。


kypさん:

体験版のシナリオのなかでも「これは人によっては嫌だろうな」という描写は何個もあります。苦手な人には無理にやってもらいたくはないなという気持ちはあったので、作品を出す前にブログで注意書きみたいなものを書いたりとか、その辺は事前に作者が伝えられる範囲では言ってはいました。でも自分は正直巨大な女の子が好きなので、ショッキングな描写といいつつめちゃくちゃニコニコしながら組み込んでるんですよね(笑)


ただ、普通の人から見たら嫌な描写だろうなと思って入れていたんですけど、意外と配信者の方の反応を見たり、巨大娘自体のファンではないという人からもらったコメントを見たりすると、「ショッキングだけど逆にそれがフックになって新鮮でよかった」というコメントをいただいたりして。事前に思っていたほど「うわ、何だこのグロ描写は! こんなんダメだわ」みたいな感じにはなってないのかなっていう感じですね。自分がめちゃくちゃ心配していた「界隈の外」の人の反応みたいなのが、思っていたよりひどい反応じゃなかったのかなと感じています。




――皆さん意外と寛容だったわけですね。それにしても「巨大な少女に飼われる」というテーマをゲームで表現したきっかけは何でしょうか。


kypさん:

もともと自分は中高生くらいのときからゲーム制作をしていたんです。中高の文化祭で出す小規模なものなんですけど、15分くらいのミニゲームみたいなのを作っていて。大学生になってしばらくゲーム作りというのはやめちゃっていたんですけど、学生時代の後半くらいのときに『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action(以下、VA-11 Hall-A)』(※1)っていうノベルゲームをプレイして、「インディーゲームっていいな」っていう風に思い始めて。


でも、そのときはもう就職するのも決まっていたし、結局何も作らないで就職しちゃって。そのあと会社で働いていたら仕事が嫌になって(笑)まあいろいろあって、そのあと無職になったんですよ。そのタイミングで、「また貯金が尽きたら仕事に戻らなきゃいけないし、無職のうちにやりたいことやっておくか」と考えて、まずゲームを作りたいなっていうところからスタートしたんです。


で、そのときにゲームを作るとしても長い時間やっていたら貯金もなくなるから、できて1作品が限界だろうと見積りました。加えて技術も、すでに何作品も作っているような人に比べると高くはないので、ゲームのテーマを決めるなら自分にしか作れないものを作りたいなっていう風に考えたんですね。自分にしか作れなくて、かつ自分が実際に完成された作品として見たいものって何だろうって思ったら、それまでずっと長い間「巨大な女の子と関わる」というテーマが好きだったので、じゃあもうそれをテーマにしてゲームを作ってみようかなって考えたんです。


(※1)『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』

ベネズエラに拠点を置くSukeban Gamesが2016年にSteam版をリリースしたビジュアルノベル。プレイヤーはディストピアに店を置くバーのバーテンダーとなり、住民たちにドリンクを提供する。




――中高生時代の原体験と、大学生時代の『Va11-HallA』との出会いがあって、会社を辞められたタイミングでゲーム制作に乗り出したんですね。もしかして『SAEKO』がピクセルアートで描かれているのは『Va11-HallA』の影響ですか。


kypさん:

実はそうです。『Va11-HallA』と『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk(以下、Milk inside a bag of milk)』(※2)っていうノベルゲームがあって。あれもドット絵で結構具体的なものも描いているけど、急に抽象的なパターンになって、「これは本当にあるものなのか」が分からなくなるという演出を色数の少ないドット絵でやっているんです。『Va11-HallA』と『Milk inside a bag of milk』を見て、「ドット絵のビジュアルノベルっていいな」って思った記憶があります。


ドット絵自体はkohくんというイラストレーターが描いています。彼とよく話すのは、「ドット絵って『物そのものを描く』っていうよりは一旦、『モノの解釈』みたいなのに落とさないと上手く描けないよね」っていうのを言っていて。逆にそれが、同じものを描いていてもどういう側面を取り上げて表現するかで解釈の幅が普通の絵よりあるように感じます。同じものを描いていても全然捉え方の違う絵が描けるので、その辺はピクセルアートにしてよかったんじゃないかなっていう話をしていますね。


(※2)『Milk inside a bag of milk inside a bag of milk』

ロシア出身のデベロッパーNikita Kryukov氏が2020年にリリースしたビジュアルノベル。精神の病を患った主人公の認知する歪んだ世界が、解像度の低いピクセルアートで描かれる。




――ラフな線で描かれたピクセルアートは、『SAEKO』の独特な世界観を形成する重要な要素ですよね。演出面についてさらに深掘りさせてください。冴子の巨大感を演出するうえで「やったこと」「やらなかったこと」は何ですか。


kypさん:

主人公のリンの身長が人形くらいになって机の上にいて、そこで世界を見ているっていうのがゲーム内の冴子との会話シーンなんですよね。そのときただアングルを低くするとか、ただ巨大な人間がいるとかいう風に描くんじゃなくて、リンの視線に立ったときに世界全体がどう見えるかを一回考えたうえで、それをアートやシナリオに落とせるといいよね、というのは話していました。


たとえば冴子との会話シーンって机の上から冴子を見ているんですけど、冴子はデカすぎて胸の下までしか映っていないんですよ。手と胸しか映っていなくて。描き方によってはそれってむちゃくちゃエロい構図なんです(笑)まず「おっぱいがでけえ!」ってなって、うおー最高、みたいな感じにも描けると思うんですけど。でも自分が小人になったとして、自分の20mくらい先に冴子の胸のように大きな物体があったら、多分まず「おっぱいでけえ」とは最初はならないと思うんです。そうじゃなくて「何かでかい質量のものが遠くにあるなあ」みたいなことから始まるだろうなと思って。なのでイラストを描く人に発注するときは、「最初に見たときに『おっぱいとしてエロいな』とかそういう感覚は持たないように描いてほしい」ということを言っていて。




――直感的なセクシーさよりも、巨大さのリアリティを優先したわけですね。


kypさん:

はい。これは「やらなかったこと」ですけど、たとえば最初の何枚か描いてもらったうちの初期テイクだと、おっぱいの上側が映っているんです。上って光が差すじゃないですか。そうすると、上側が映ると典型的な丸いボインの形になるんですね。で、多分それをやると最初に画面を見た人にとっては「あ、なんかおっぱいあるな」って気づいちゃう。そうすると、恐怖っていうよりはまず最初に「なんかおっぱいにズームインしているな」っていう絵として思われて、あの雰囲気が出せないなと思ったんです。


だから、描くのはおっぱいの下側だけにしてもらいました。光の表現についても、本当は上から光が差して、下に影があってという形なのかもしれないけど、違う描き方にしているんです。巨大な物体を近くから見るときって、全体の形とは関係なく陰影がつくんですよね。服でいったら服のしわであったり。どんなものでも「画一的に光が上に差していて、影が下に差していて」という描き方ではなく、大きさみたいなものを影の複雑さなどで表現しています。本当は同じ大きさで見たらただの「おっぱい」である存在を、近くで見ると全然違う物体に見えるように、一旦形だけを切り離してその形を描いてほしい、みたいなことは言ってて。長くなったんですけどそんな風にやりました。


――小さくなって世界を見たときの異化作用を働かせているわけですね。


kypさん:

今の冴子との会話シーンってイラストレーターのkohくんに申し訳なかったなと思うくらい、何回か描き直したり何パターンか作ったりということをやったんですね。その途中で、どうして「この絵だとあまりよくなくて、この絵だといい」という判断をするのかを自分で考えないと、ちゃんと「こういうところを直してほしい」というのが言えないので、できるだけ言語化できるように考えていました。


多分『SAEKO』で描きたいことって「大きさによる認識の変容」みたいなのがあるんです。小人同士で会話する昼パートのシナリオを書いているときも、無意識のうちにすごく考えていたことなんですけど。たとえば普通の大きさだとただのピーナッツの殻なんだけど、自分が小さくなるとそれが枕の形になって頭にぴったりはまるとか。そういう「ただ小さくなった」っていうだけじゃなくて、小さくなったことによって周りの世界の見え方が変わったり関わり方が変わったりっていうのが自分の好きなテーマで、それをできるだけ表現したいんだなっていう風に思っていますね。




――小さくなった異世界を体験するという点でも、やはり『SAEKO』はゲームとして作られるべくして作られたように思えますね。デモ版では、脚本とゲームシステムが互いに説得力を高めあっているのも印象的でした。シナリオとシステムを一体化させるために気を付けたことは何ですか。


kypさん:

まず1つは、僕がシナリオもシステムも同時に手がけているので、シナリオを書きながら「このシステムの部分はこうしたらシナリオ的な意味を持たせられるんじゃないか」と考えながら制作できていた、っていうのがありますね。


あと、『SAEKO』って実はいわゆるノベルゲーム用のエンジンみたいなものは使っていないんです。世の中にはUnityの宴(※3)だったりRen'Py(※4)だったり、最初からある程度ノベルゲームのシステムのテンプレートがあって、それにはめ込んだらゲームが作れるエンジンがあると思うんですけど、そういうのは使わないでEbitengine(※5)というエンジンを使っています。EbitengineはGo言語(※6)というプログラミング言語を使用していて、システム自体は自分で作るっていうすごくミニマルなゲームエンジンです。


(※3)Unityの宴

ゲームエンジンUnityで使用できるツール。ビジュアルノベルを開発するために設計されており、プログラミング言語を使わずExcelでシナリオを管理できるのが特徴。


(※4)Ren'Py

ビジュアルノベル向けゲームエンジン。オープンソースで提供される。


(※5)Ebitengine

日本のソフトウェアエンジニア星一氏が開発する、オープンソースの2Dゲームエンジン。


(※6)Go言語

Googleが2009年にリリースしたオープンソースのプログラミング言語。


――ノベルゲーム用のエンジンではないんですね。


kypさん:

そうなんです。Ebitengineは画像の描画とか音楽を再生するとかそういうことはやってくれるんですけど、ノベルゲームのノベルゲームらしい部分、たとえば台本に沿って立ち絵や台詞を表示して、とかそういう部分は全部自分で実装しています。だから、かなりシステムのなかで自分のいじれる部分が大きかったんですよね。


なおかつ僕はちょっと昔Ren'Pyを使ってたんですけど、Ren'Pyだと最初にノベルゲームを表示するのはすごくやりやすいんですけど、なんかテキストの位置ここだけ変えたいな、とか、違う演出したいなってなると急に難易度が上がるんですよね。逆にEbitengineとか、ノベルゲームの部分自体は自分で作らなきゃいけないっていう状況だと、とりあえず従っておくテンプレートみたいなのがないので、何をやっても結局大変なんです。だったらちょっと違うことをやっても一緒だから、普通のノベルゲームにない表現をやってみるか、というのをすごく挑戦しやすかったっていうのがあるかなと思ってます。



Lo-Fi冴子の元ネタは?


――『SAEKO』はゲーム内のBGMも、kypさん自身が作られていますよね。使っているDAW(※7)や音源などを聞かせていただければと思います。


kypさん:

DAWはもともとCubaseというソフトを使っていたんですけど、『SAEKO』の制作の途中からAbleton Liveというのに変えて、それは凄く良かったですね。オーディオ・インターフェース(※8)はRoland Rubix24っていうやつで、モニタースピーカーはFostex PM0.4cっていうやつなんですけど、これは大学の同級生が使っててカッコいいなあと思って買っただけなので、特に詳しいわけではないですね(笑)。


(※7)DAW

Digital Audio Workstationの略で、DTM=パソコンで音楽を制作するためのソフトウェア全般を指す。Cubase,Live以外にもLogic,GarageBand,FL Studioなどが定番のソフトとされている。


(※8)オーディオ・インターフェース

楽器の録音やスピーカーへの出力など「音の出入り口」としてパソコンに繋ぐ機器であり、DTMの必需品。



――機材の見た目の良さ、というのも大事ですよね。


kypさん:

確かにそうですね。あとは、シンセサイザーをいじるのが結構好きなので、Serum(※9)も使っています。それとSplice(※10)っていう、サンプルが使い放題のサブスクのサービスがあるんですけど、それも利用していますね。


(※9)Serum

シンセサイザーのソフトウェアで、近年最も人気の音源のひとつ。同様の人気ソフトにMASSIVE、NEXUSなどがある。


(※10)Splice

文中にもある通り、ドラムやベースのループ、楽器や効果音など、著作権フリーの音源が使用できるサービス。ダンス・ミュージックの著名なクリエイターが多く利用している。


――作り方としては、サンプルの音源でLiveでループを組んでいく、みたいな感じでしょうか。


kypさん:

そうですね。あんまりサンプルを使うのはどうかなと思ってた時期もあるんですけど、『SAEKO』に関してはゲームのテイスト的に生の楽器の音色を使いたかったり、ドラムのパターンとか結局サンプルを使った方が早いし、いいものができるなと思って。SpliceとSerumでほとんど作ったかなと思ってます。




――現代的な、ダンスミュージックを作る人が皆やっているようなスタイルを踏襲して作った感じですね。


kypさん:

そうですね。その方がYouTubeのチュートリアルとかを観てそのまま使えるので。


――ダンスミュージックや打ち込みの音楽で言うと、影響を受けたプロデューサーなどは誰がいますか。


kypさん:

そうですね。自分はもともといわゆるベース系の音楽っていうか、Dubstep(※11)とかTrap(※12)とか、Drum’n’Bass(※13)とかのジャンルが好きだったので、そういうところからの影響はすごい大きいかなと思ってます。


『SAEKO』のサウンドトラックを作るときは、まず最初にどういうジャンルの曲が合うかなみたいなところから考えました。例えば、冴子との会話のシーンで流れてるのはLo-Fi HipHop(※14)で、小人と話してる昼のシーンで参考にしたのはChill Dubstep(※15)というジャンルの、更にそれがJazzとかと混ざった、名前のついてない変なジャンルがあるんですけど。それのDeep Headsっていうレーベルがあって、そのレーベルから出てる曲なんかを参考にして作りました。


(※11)Dubstep

UK Garageと呼ばれるジャンルから派生した南ロンドン発のダンス・ミュージックで、2000年代後半から爆発的に流行~定着した。Wobble Bassと呼ばれるうねるようなベースが特徴。代表的なプロデューサーにSkrillexや初期のJames Blakeなど。


(※12)Trap

アメリカ南部・アトランタ発祥のHip Hopのサブジャンルながら、もはや現代のHip Hopのスタンダードとなっている人気のスタイル。ゆったりとしたテンポと808Bassと呼ばれる重厚なベース、チキチキと連打されるハイハットが特徴。Lil Uzi Vert”XO Tour Llif3”など。


(※13)Drum’n’Bass

こちらも南ロンドン発祥で、早回ししたドラム・ループが特徴。代表的なプロデューサーにShy FX、LTJ Bukemなど。PinkPantheressやPiri & Tommy Villiers、New Jeans”SuperShy”など、近年何度目かのリバイバルを迎えている。


(※14)Lo-Fi HipHop

2010年代以降ネットで人気の、ピアノやストリングスの音色を主体とした、イージーリスニングやカフェのBGMとしても使えるヒップホップ(ほとんどはラップの無い曲)の総称であり、多くの専門YouTubeチャンネルやプレイリストが存在している。


(※15)Chill Dubstep

Chill(くつろぐ、リラックスする)と付く通り、落ち着いた音色のダブステップ。Chillstepとも。Dubstepの派生ジャンルにはより激しく派手なBrostep、Drum’n’Bassと混ざったDrumstepなどがある。


――ではもともとルーツとしてベースミュージックがあり、他にも最近のジャンルをリファレンスにしながら『SAEKO』の音楽を作っていったんですね。


kypさん:

そうですね。


――歌謡曲だと「詞先、曲先」という言い方があると思うんですけど。歌詞が先にあってそこにメロディをつけていくのか、それともメロディが先にあってそこに歌詞を当てはめていくのか、という作業工程の違いですね。ゲームの場合だと「シーン先、曲先」みたいなことになるかと思うのですが『SAEKO』の場合、どうでしょうか。


kypさん:

自分の場合は、作る順番としてはシーンが先ですね。制作のかなり終盤になるまで曲とか音も全然当てずに音無しのビルドをまず作って、絵やシステムがほぼできた状態になってから、最後の最後にひとつひとつのシーンに曲をつけるというやり方をしています。


自分は普通に曲を作ってると「もっといいのができるんじゃないか」みたいにすごく考えちゃって、なかなか納得がいかずめちゃくちゃ時間を食っちゃうんですよね。3パターンも作って、結局最初のやつが一番良かった……みたいなことになったり。だから、最初に曲を作り始めるとスケジュールがやばいことになってしまうので、まず曲以外を作って、スケジュールの最後の方に曲を当てる。これによって、なんとかスケジュール内で完成する、最適なアウトプットになるようにしていますね。


――確かに打ち込みの音楽って直そうと思えばいくらでも直せるから、どんどん完成が遠のくことがありますよね。


kypさん:

作ってから「なんか物足りない」ってなったらすぐまたDAWを開いて直して、ってやってると……なので、制作の後の方で音楽を作るのが、自分にとっては良かったかなと思ってますね。


――先ほどLo-Fi HipHopについて言及されていましたが、Lo-Fi HipHopにはLo-Fi Girlという「机に向かって勉強してる女の子」のイラストが、アイコンとしてありますよね。『SAEKO』の机に座っている描写はちょっとそのパロディのようにも見えますが、それは偶然でしょうか。


kypさん:

そうですね。まず画面があって、そこにどういうジャンルの曲を当てようかなって考えるんですけど、冴子の場合は机に向かって勉強してるループが流れているので、「これはLo-Fi HipHopにしよう」と思いました。当てはめてみたら、それが結構うまくいったなって感じですね。


――意識はされていたんですね。Lo-Fi  Girlってジブリみたいな雰囲気の絵やキャラクターが多いと思うんですけど、『SAEKO』のようなダークな世界観で、女の子もちょっと怖い感じっていうのは、Lo-Fi HipHopないしLo-Fi Girlとしてはギャップがあって面白いな、と思いました。







kypさん:

そうですね。ホラー映画でも、ホラーのシーンで明るいBGMが流れてたりとかすることがあって、その違和感みたいなのが好きなので、『SAEKO』とLo-Fi HipHopというのもそういうギャップとしてうまく出せたんじゃないかなと思ってますね。


――ゲーム本編も音楽もご自身で作られている点について、改めてお聞きしたいのですが、ゲーム全体を自分一人で全て演出したい、という強い意志によるものなのか、それとも正直な所、予算の事情もあったのでしょうか。


kypさん:

両方といえば両方なんですけど(笑)もともと中高生の時にゲームを作っていた頃から、すごく簡単ですけど自分で曲を作って当てていたので、音楽も自分でやっていいっていうのはずっと思っていて。それに、自分でやった方がさっき言ったギャップを出せたり、自分の頭の中で思っていることをそのまま音楽にして、イメージと違ったら修正してみたいなのがすぐにできるので、自分で音楽もやって良かったな、という風に思っていますね。


――確かに、自分の思うバランスで制作が進められますよね。ブログではBreakcore(※16)だったり、もっと激しい音楽ジャンルの名前も挙がっていましたが『SAEKO』体験版では静かな曲調が多いですよね。本編では音楽も変わるのでしょうか?


kypさん:

本編も多分、今ぐらいのテンションの音楽がずっと続くと思いますね。YouTubeのBreakcoreの動画で、アニメの女の子をコラージュした凄くサイケな映像があって、音楽も映像も込みでそれに影響されて、『SAEKO』でも当初は小人との会話シーンなどでBGMをBreakcoreにしてみたんですけど、試してみると曲調が激しすぎてプレイに集中できなくて(笑)そこから徐々に、ゲーム内のBGMは大人しくしていったという経緯があります。


(※16)Breakcore

Gabba、Happy Harcore、Drum’n’Bassなど複数のジャンルの影響下に生まれ、高速のドラム・ループの上に細かく刻まれたサンプルと、展開の手数の多さが特徴。アニメ・ゲーム文化とも親和性が強い。


――音楽単体でのカッコよさと、ゲームの中で効果的に聴こえるかどうかは、必ずしも一致しないですよね。ところで『SAEKO』のように、ゲーム本編も音楽も同じ作者が手掛けた作品で、参考になった作品はありますか。


kypさん:

そんなに多くの例を知っている訳ではないんですが『ファミレスを享受せよ』(※17)というゲームがあって、それはまさにゲームも音楽も一人で作られていまして。その作品は無音のシーンが多くて、BGMは要所要所で入る、みたいな演出になっているんです。それも一人で全部やってるからこそできることなのかなという気がします。一人だからこそ「ここはいらない」という判断ができるんじゃないかと思うんですが、『ファミレスを享受せよ』はまさに、ゲームも音楽も一人で作る作品の成功例なのかなと思います。


(※17)『ファミレスを享受せよ』

日本のインディーゲーム開発スタジオ月間湿地帯が2023年にリリースしたアドベンチャーゲーム。プレイヤーは謎のファミレス「ムーンパレス」に閉じ込められ、ほかの客とともに脱出を目指す。




今日、1番伝えたいこと


――ここでゲームのことについてたくさん伺ったので、kypさんのパーソナルな部分も掘り下げていきたいと思います。自分の人生に影響を与えた作品は何ですか。


kypさん:

1個は『Va11-HallA』です。それをきっかけにゲームを作り始めたので、人生に影響を与えてるかなって思いますね。もう1つは、これも先ほど名前を出しましたが『Milk inside a bag

 of milk』です。「ああノベルゲームっていいなあ」と思ったきっかけなのですごく印象に残っています。


あとちょっと全然ジャンルが違うんですけど『Victoria II』っていうゲームがあって。Paradox Interactiveっていう歴史シミュレーションみたいなのをいっぱい出してる会社のゲームなんですけど、『Victoria II』は産業革命ぐらいの時代の歴史シミュレーションゲームです。アクションの要素はなくて、基本的には画面に地図だけが映っていて、その地図の上をポチポチして工場の増産を指示したりします。本当に、机の上のシミュレーションだけやるゲームです。




――かなり硬派なシミュレーションゲームですね。


kypさん:

自分はその『Victoria II』っていうのがパソコンでやった最初のゲームでした。そこからシミュレーションゲームを多くやってきましたね。今にして考えると、ファンタジーやRPGみたいに誰かを倒して何かを手に入れて……っていういわゆる王道の作品をあんまり通ってなくて、そういう特定の歴史などがテーマのゲームをいっぱいやってきたので、「ゲームってどういうテーマでもとりあえずゲームになるよね」という考え方が身に付きました。“パラドゲー”のおかげで「何をやってもいいんだな」っていうのを感じたので、これもすごく影響を受けたゲームですね。


――王道に縛られない、自由なゲームの作風を学んだわけですね。ゲーム以外だと影響を受けた作品はありますか。


kypさん:

まず『SAEKO』の原案になった笛地静恵先生の『もうひとつのコワイ童話』(※18)っていう小説シリーズがあるんですけど、それはもう本当に十何年か、すごい定期的に読み返してるので、そろそろ暗記できるんじゃないかって思ってます(笑)すごく影響を受けているし、いまだにそれをもとにゲームを作るぐらいには好きですね。


(※18)『もうひとつのコワイ童話』

国内の作家・笛地静恵氏がネット上で公開する小説シリーズ。13歳の少女・冴子が小人たちをもてあそぶ日常を描いた怪奇小説。R-18のため検索の際は要注意。


――まさしく影響を受けた作品ですね。


あともう1つ、自分は趣味でいうとゲームより小説を読むことが多いんです。影響を受けた小説でいうと、『グリーン・ワールド』っていうSF小説があって。自分が小学校の高学年か中学生くらいのときに図書館で借りて読みました。


ストーリーはというと、人類が地球を環境破壊しつくしてしまって生きていけなくなったから、ロケットを飛ばして別の居住可能な惑星にいくんですね。そこでは全然地球と違う生態系が発展しているんです。作品を書かれた人が古生物学者なので、架空生物にも詳しくて。本の資料に図鑑がついていて、架空の惑星にいる生物のスケッチがバーっと並んでるんですよ。


『グリーン・ワールド』ではエピソードが淡々と書かれていて、主人公みたいな存在もいないので、単純に設定資料みたいなのを読んでいる気持ちになるんです。それがすごく自分の小学生か中学生くらいのときの印象に残っていていまだにカッコいいなと思っているので、これも影響を与えた作品ですね。


――ドラマチックな出来事があるよりも、淡々と出来事が続く感じが刺さったんですね。そして、結構退廃的な世界観がお好きな印象も受けました。


kypさん:

そうですね。結局バッドエンドが好きなので……いや『SAEKO』とは関係ないですけど、『SAEKO』がバッドエンドになるかどうかはちょっとまだ分からないですけど(笑)無理に作られたハッピーエンドよりは、「人間ってこうだからバッドエンドになるよね」みたいな展開の方が読んだ後で印象に残りますね。





――それではここで、ご趣味を教えてください。ただし、「残りHP100のときに打ち込む趣味」「残りHP50のときに楽しむ趣味」「残りHP1のときにする趣味」に分けて教えてください。


kypさん:

HP100のときは小説とかを読むようにしていますね。体力があるときにしかできないので。SFの小説だったり、それ以外のものも読んだりしますけど、長めの本を読むようにしています。


――お好きな作家はいますか。


kypさん:

ぱっと思いつくのはテッド・チャン(※19)っていうSFの作家ですね。この人は本業がITソフトのマニュアルを書いている人で、すごく科学に詳しいんです。だから作品としてはめちゃくちゃ科学的な出発点で「この方程式が成り立たない世界だったらどうなるのか」とかそういう観点で始まるんですけど、物語のなかでちゃんとそれが人間の心理とかに影響を及ぼすところまで描いているんです。作品の数が少ない作家さんなんですけど、すごいなあと思って読んでいますね。


あと、スタニスワフ・レム(※20)という作家がいて、この人はポーランドの作家です。『惑星ソラリス』という映画にもなっている有名な作品が代表作ですね。ストーリー自体は訳の分からない科学現象が起きている惑星に調査に行って、そこで不思議なことが起こり続けたりする話です。原作の小説だと「こういう学説があったけどこういう理由で否定された」っていうのがずっと続いていて。物語の起承転結はないんですけど、一つ一つの流れがすごく論理的に作られていて、なのに全体で描かれているのは意味不明な惑星っていう非論理的なものを描いていて、それはすごく好きな作品ですね。


(※19)テッド・チャン

アメリカのSF小説家。映画『メッセージ』の原作となった短編小説『あなたの人生の物語』を1999年に発表し、ネビュラ賞中編小説部門受賞、シオドア・スタージョン記念賞を受賞した。


(※20)スタニスワフ・レム

ポーランドのSF小説家。人間と地球外存在との遭遇をテーマにサイバネティクス、量子力学、進化論や言語学などの理論をふまえた作品を数多く残した。


――『グリーン・ワールド』とも通ずる話ですね。HP50のときはいかがでしょうか。


kypさん:

スポーツ観戦が好きで。特にレースを見るのが好きなんです。といってもほとんどテレビで見て、たまに1年に何回かサーキットに行くくらいですね。『SAEKO』とかとは全然関係がない話なんですけど(笑)一番長く観てるのはF1で、速い車のレースですね。今でもレースがあるときは毎週観ていて、すごく好きです。あとせっかくなので、もしインタビューをほかのゲーム制作者さんが見るなら伝えたいなと思ってたことがありまして。自転車のレースがですね、作業用BGMにめちゃくちゃ良くて。今日はそれを伝えにきました。


――『SAEKO』のことではなく自転車のレースですか。


kypさん:

自転車のレースでいうと、ツール・ド・フランス(※21)が一番有名ですね。3週間くらいかけて1日5~6時間とか、1日200kmとかを移動するんです。それがなぜ作業用BGMに向いているかっていうと、面白いのはもちろんですが、1レースが大体5~6時間とかあるんですよ。その間も何かは常に起き続けているんですけど、たとえばタイム差が縮まったりとか、「うおー!」みたいな瞬間は少なくて。ずっとその間戦略的に緻密なことをやっているんですよね。あと自転車のレースって休憩みたいなのがあって、5~6時間の間ずっと全力で走ってるわけじゃないので、要所でペースを落として休憩みたいなタイミングがあって。そういうときは日本語の実況と解説も雑談をしていて「ラジオを聴いてるのかな?」ってくらい全然関係ない話をしてたりとかするんです。


で、終盤の15分くらいはものすごく実況も叫んだりするので、そこはもう諦めて配信を観るしかないんですけど、途中までは作業しながら観られるし。あとツール・ド・フランスだったらフランスの山とか海沿いとか、綺麗な場所を走るんですね。なので、『SAEKO』とかどす黒いものを描いてるときに、ふっと隣のディスプレイを観ると地中海の青い海が広がってたりとかして。「あ~、癒されるな~」って3分くらい自転車が走ってるのを観て、また黒い創作に戻るみたいな感じで。創作をやってる人はバランスをとるのにいいんじゃないかなと思います。


(※21)ツール・ド・フランス

世界トップレベルの自転車選手が競う、フランスを中心とした自転車ロードレース大会。全22チーム・176人で構成された集団と、150台からなる広告キャラバン隊が、毎夏3週間かけて町から村へ、山から谷へと、約3500kmの距離を駆け巡る。





――『SAEKO』は実は地中海に抱かれながら作られたんですね。


kypさん:

そうですね。それがなければもうちょっとこう、病んでしまってる可能性がある。リラックスできますね。自転車のレースは1年中やっているので、よかったらぜひ観てください!


――それはさておき、HP1のときはいかがですか。


kypさん:

自分は『まんがタイムきらら』(※22)が好きで。『きらら』の漫画を、多分電子も合わせるとかなり持っています。きらら系作品はとにかく癒されるし、絵も可愛くて勉強になるので、体力ないときに見てますね。


(※22)『まんがタイムきらら』

芳文社発行の4コマ漫画専門雑誌。女子高生など女の子同士の生活を描く日常コメディを中心に掲載する。


――最近のイチオシは何ですか。


kypさん:

『ぬるめた』(※23)っていう作品があって、これはこかむもさんという方が描かれているんですけど。作品の筋は普通の日常系で、人造人間の女の子と、それを作った博士っぽい女の子と、その友達を描いています。枠組みは完全に日常系なんですけど、絵柄がカッコいい系のデフォルメで、本当に読んでいてずっと「おおっ」と思わされますね。


それからいろいろな新しいことに挑戦していて、4コマの途中で急にワイドコマになって雰囲気が変わったり、いろいろ絵的な挑戦をしています。あと『きらら』系って男を絶対に出さない作品が多いんですけど、普通に主人公の仲良し組の1人が「私、昔好きな男がいたんだけどさ」みたいな話をしたりもします。日常系からあえて外しているところがあって、そこが逆に日常っぽくてすごくいいなと思ってます。日常系としても、ギャグとしても面白くてオススメです。


(※23)『ぬるめた』

2020年から国内の漫画家こかむも氏が連載する4コマ漫画作品。人造人間のくるみ、保護者のちあき、クール系のさきな、唯一の常識人しゆきが高校生活を送る様子を描く。


巨大娘と照れと私


――ずばり巨大娘コンテンツと出会ったきっかけは何ですか。


kypさん:

だんだん答えるのが恥ずかしい質問になってきましたね(笑)自分は本当に長い間巨大娘が好きで、多分もう十数年はずっと追ってます。最初に見たのが中学生のころ、2010年代の前半だと思うんですけど。当時まだ僕は携帯電話とか持ってなかったので、インターネットをPSPで見てたんです。PSPにブラウザがあって、そのブラウザでこっそりマニアックなサイトとかを見てたんですけど。当時って多分、まだpixivとかTwitter(現・X)とかが現代のように「すべてを網羅している」って感じじゃなかったんですよね。まだ個人サイトとかがたくさんあって、特に巨大娘みたいな、狭い趣味の分野って個人サイトが強くて。で、自分がいろいろ調べたあとに、何個かの個人サイトにたどり着いて。基本的にはその内容を1から100まで見るって感じでした。ゲームの原案になった笛地先生の小説を最初に読んだのもそういう流れでしたね。


――なるほど。長年抱えていた嗜好を結晶化させたのが『SAEKO』だと思いますが、自分のなかの暗い衝動を表現するうえで、照れや自意識の壁はありましたか。


kypさん:

これはもう、めちゃくちゃありますね。いまだにあるし。イベントとかに出て『SAEKO』をプレイしてくれている人がいても、自分はそれを見られないんです。プレイが始まるとわざわざ違う隣のゲームを見たりしてます(笑)配信とかも見られないので、ほかの開発メンバーとかパブリッシャーの人とかに見てもらって、フィードバックを受け取ってます。




――自分のなかでも葛藤があるわけですね。それでも『SAEKO』は作品として世に出ているわけですが、どうやって自意識を乗り越えましたか。


kypさん:

これはまた長くなってしまうんですけど……。まず思っていることとして、照れてしまうことや「これって出して大丈夫かな?」と思うのは全然悪い感情じゃないと思うんです。むしろ持ってていい感情で。というのも、そうやって照れるのは「一般的にはこういう展開が普通で、こういう作品が受け入れられているよね」というのを知っているからこそなんですよね。そういう「普通」と自分を比べて照れてしまうっていうのは、まず一般的な作品を知らないとできないので、そういう感情自体を持っていることはすごくいいことだと思います。


ほかの作品を見ていても「この人はこれが好きなんだろうな」っていうのが直接伝わってくるっていうより、一般受けする展開のなかでも「あれ? この人これが好きなのかな?」っていうのが巧妙に隠されてるみたいな作品ってあると思うんです。そういう、普通の人から見たら普通に王道の話として読めるし、ヘキを知ってる人からは「これって何かヘキだな」みたいな両方の楽しみ方ができる作品を作ることに繋がるので、照れは持っててもいい感情なんじゃないかっていうのは思っていて。


――なるほど。「照れることを照れなくていい」ということですね。


kypさん:

ただ『SAEKO』の場合は、その点をすべてすっ飛ばしてぶち壊していて。もともとゲームを作り始めたとき、最初はほかの人にプレイされることをあんまり考えていなくて。「ゲーム作るか」といって自分がやりたいものをやり始めたので、当初は全然照れとかなかったんですね。ただゲームの認知が広まってゲーム制作者の友達も増えたり、さらに開発チームのなかにパブリッシャーの人が入ってきたりして。2週間に1回会議をして「こういう展開を入れたいんですけど」みたいなのを話すんですけど、それがすごい恥ずかしくて(笑)だんだんこう、若干抑えちゃってるなっていう場面があったんです。


そこで「一般的にこういう作品が望まれる」とか「こういう展開はあんまりない」とかを考えるのも客観的に捉える視線だと思うんですけど、同じように「自分自身がどういう人間でどういう能力があるのか」みたいなのも客観的に捉えるといいなと思っていて。それはなぜかというと、自分の場合は巨大娘の相当ダークな小説をいっぱい読んできているので、そういう分野については相当詳しい方なんじゃないかと思うんです。逆に王道の、勇者が魔王を倒すストーリーとか純愛のノベルゲームとかは、そんなに知らないし詳しくもないので書けないんですよね。


そういうことを踏まえて自分ができることを考えたとき、自分は個性をアクセルにして出しまくる作品しか作れないから。もう照れはするけど「やるしかねえな」という風に思ったんです。それをきっかけに「いくぜ」って決めてアクセル踏んだみたいな。それで今の感じになってますね。


――自分にできることを最大限見つめたことで、照れを乗り越えられたと。とても勇気が出る話ですね。では最後にお聞かせください。自分が小人になったら巨大娘に何をされたいですか。


kypさん:

これはアーティストのイメージを保つためにノーコメントにしようかなと……。


――真実はゲームをプレイして確かめよう、ということで。それでは『SAEKO』の今後についてファンに一言お願いします。


kypさん:

『SAEKO』は体験版を出して、ありがたいことにゲーム全体としても評価をもらっているし、そういうヘキを持っている人に刺さっているのがめっちゃ伝わって来てすごい嬉しいなと思ってます。ただ正直作ってる側の感覚からいうと、1日目までのストーリーって本当に序盤というか、2日目・3日目はもっと面白くなる想定で今作っていて、本編を通しでプレイしたら今の『SAEKO』のゲームの印象よりさらに深い何かが得られるんじゃないかなと思って作っています。まだ発売は先になるとは思いますが、期待して待っていただけると嬉しいです。




『SAEKO: Giantess Dating Sim』はこちらのSteamストアページからウィッシュリストに追加可能です。



この記事を書いた人

  • 聞き手:ササン三(room6)

  • 編集:Shoichiro Kotetsu / ササン三(room6)

  • 校正:fukushima(room6)

  • デザイン:高市(room6)



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