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新世紀ゲーム音楽学 第1回――レトロフューチャー・サウンド~シンセウェイブとそのルーツ

  • 執筆者の写真: 悠樹 黒澤
    悠樹 黒澤
  • 10月24日
  • 読了時間: 9分

ゲーム音楽は耳から入る物語!その歴史と本質をマニアックに、教授と生徒の対談形式でたっぷり考察します。第一回はシンセサイザー&80年代カルチャーとゲーム音楽について掘り下げます!


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タガリ教授…喋りたがり、教えたがりの博士。ゲーム文化や音楽はもちろん、古今東西のマニアック過ぎる知識に詳しい。東亜芸術音響大学・視聴覚芸術学部長、聖オブラート学院大学・デジタル考現学教授、時空間サウンド学会(時音研)理事長、国際ミュージコロジー財団西荻支部長、みらい電音基金特別顧問、市民団体調布のタヌキをまもる会相談役、ハイパーメディアタケコプター等の華々しい経歴・役職を持つ。


ニワカくん…ゲームや音楽全般がそこそこ好きな大学生。ショート動画で流れてくる豆知識ネタが好き。教授の講義はあまりマジメに受ける気がない。


タヌキ…タガリ教授になついている野生のタヌキ。普段は深大寺の森に棲息する。獣特有の匂いをキャンパスに撒き散らす。


――――――――


部屋の広さに対して、生徒の数はまばらな講義室……


タガリ:

ゲーム音楽は単なる「BGM」ではない。耳には瞼がない──聴覚という閉じることのない窓は、飛び込んでくる音とリズムを無防備なまでに受け入れる。


ニワカ:

耳にまぶた?先生、よくわからないです。


タガリ:

本来、プレイヤーの主体的な選択で展開していく、能動的なエンターテイメントである「ゲーム」において、ゲーム音楽はそれ自体が独立し、プレイヤーの感性に不可避的に入り込むことが許された、特別なファクターと言えるだろう。


ニワカ:

ファクターってなんですか、先生。あと、先生が連れてきたタヌキが臭いです。金魚のエサみたいな匂いがします。


タガリ:

キミ!先生じゃなくて教授と呼びなさい。つまりだね、ゲームというのは自分が何をしたいのか、自分で選択して進めていく遊びだろう。だがゲーム音楽というのは、選ぶと選ばざると、どういう曲であれ、強制的にこちらの耳に入って来て、無意識に影響を与えるということだな。ゲームの内容に関わらずね。


ニワカ:

ああ、趣味じゃないゲームでも、なんかBGMは覚えちゃって、つい鼻歌で歌っちゃってたみたいなことですか。


タガリ:

まあ、そういうことだ。で、この講義では、ゲーム音楽がどのように先行するカルチャーや音楽に影響を受けて作られたのかを解説していく。知らず知らずに耳に入って来ている音楽が、どのようなルーツを持っているか知りたくないかね?


ニワカ:

適当にゲームの話聞くだけで単位貰えると思って受けたけどなんかめんどくさそーな授業だな(そうですね、非常に興味深いです)


タガリ:

本音と建前が逆になってるじゃないか。


①レトロフューチャー・サウンド~シンセウェイブとそのルーツ


タガリ:

さて、ニワカくんは『Hotline Miami』を遊んだことはあるかな?


ニワカ:

ああ、あれは面白かったですね。ギャングやらガードマンやらがドカドカ銃を撃ちまくって、血まみれになるやつですよね。『Nuclear Throne』とか、ああいう2D見下ろしアクションってFPSとはまた違うワクワク感ありますね。


タガリ:

音楽はどうだったかね?


ニワカ:

音楽もカッコ良かった気がしますね。なんか……低音の電子音で「ズドドド ズドドド……」が繰り返される、みたいな印象です。圧迫感っていうか。


タガリ:

うむ。「ズドドド…」というのはまさに、シーケンサーによるシンセサイザーの演奏の表現として字数的にもぴったりだな。



ニワカ:

シンセサイザーは何となくわかるけど。電子ピアノみたいなやつでしょ。シーケン?とかは知らないけど。


🐾タヌキの解説:シンセサイザーと電子ピアノの違い🐾

シンセサイザーと電子ピアノ(キーボード)は似て非なるもの!電子ピアノはあくまでピアノの代用品として登場したもので、シンセサイザーは信号を組み合わせてあらゆる音(楽器の音はもちろん、効果音も)を再現・創造することを目的としており、楽器というよりは「音作りのための装置」として登場した歴史があります。電子ピアノはもちろん鍵盤が付いていますが、シンセサイザーには鍵盤が付いていないタイプのものも多々あります。


タガリ:

『Hotline Miami』が、80年代の映画やカルチャーを意識しているのはわかるだろう。音楽面でも、80年代のシンセサイザー音楽を意識したBGMが多いのだ。シンセサイザーの発明・研究は戦前から行われていたが、ポップ・ミュージックや映画音楽など、一般的に聴かれる音楽として浸透したのは70年代末~80年代初頭なのだよ。


ニワカ:

まあ、80年代サウンド=シンセサイザーのイメージっていうのも何となくわかるよ。


タガリ:

うむ。で、その時代のシンセサイザーはまだ和音を出せるものは少なく、単音しか出せなかったのだ。「ド・ミ・ソ」の鍵盤を同時に押しても、「ジャーン」と3つの音が同時に鳴ることはなく、ドミソのどれか1つしか音が鳴らない訳だ。


ニワカ:

ギターでいうコードが鳴らせないってこと?じゃあ曲としてはかなりショボくなりそう。


タガリ:

だからその分、16分音符で「ズドドド ズドドド…」と、隙間なく音を鳴らし続けるような楽曲が多かったのだな。で、それを人力で弾けば指が攣ってしまうだろうが、人間の代わりにシンセサイザーを演奏させる機能・装置がシーケンサーというのだ。これによって、事前にプログラミングしていたフレーズやメロディを、シンセサイザーによって演奏することが出来た訳だ。


※77年に発売されたシーケンサーMC-8。音程、音符の長さといった情報を数値化した上で、電卓のようにひたすら入力(打ち込み)していく。


タガリ:

この動画は77年に日本で発売されたシーケンサーRoland MC-8。メロディーにおける音程や音符の長さといった情報を数値化した上で、電卓のようなキーでひたすら入力(打ち込み)していく。再生ボタンを押せばそれが奏でられるという訳だ。この動画の曲は、この機種に最初から付属しているデモ・ソングのようだが、この時点でかなりゲーム音楽風の印象だな。


ニワカ:

シンセサイザーは音色を作るだけでなく、そういう自動演奏的な点でも新しかったのか。


タガリ:

その通り。そういった自動演奏のためのフレーズ入力は「打ち込み」と言われ、今日のGarageBand(音楽編集ソフト)を始めとしたDTMの世界にも引き継がれている。電子音楽の革新性はここだ。楽器の練習という、肉体的な労力と、またそれに時間を割ける余裕・環境がなくとも、誰もが演奏できる。純粋なイマジネーションだけで音楽が作れるということだ。


ニワカ:

楽器ない、お金も技術もない、でもセンスだけで勝負できるってことね。GarageBandなんてiPhoneに最初から入ってるもんな。


🐾タヌキの解説:昔のシンセは和音を鳴らせない🐾

初期のシンセサイザーでは「ド・ミ・ソ」を同時に鳴らすことが=和音が出せないと言っているけど、その代案であったテクニックがアルペジオ。「ド→ミ→ソ→ド→ミ→ソ→ド→ミ→ソ→…」を高速で繰り返し弾くことで、擬似的に和音を鳴らしたのと同じ効果を狙いました。アシュラ・テンペルやタンジェリン・ドリームといった70年代のドイツ・ベルリンのバンドは特にこのアルペジオを多様していました。


タガリ:

ちなみに「16分音符のシーケンス」の繰り返しで一世を風靡したのが、ジョルジオ・モロダーというイタリア人プロデューサー。シンセサイザーを取り入れたダンス・ミュージックでヒットを飛ばした人物だが、映画音楽も手掛けていて、SF古典の『メトロポリス』のリメイク、それから『スカーフェイス』などもやっている。特に『スカーフェイス』の世界観は、音楽含め『Hotline Miami』に影響を与えているのではないだろうかな。



※ジョルジオ・モロダーのプロデュースで知られるヒット曲”I Feel Love”


※こちらもジョルジオ・モロダーが手掛けたギャング映画『スカーフェイス』のメインテーマ


ニワカ:

あ~、確かに『スカーフェイス』の、豪邸での銃撃戦とか重苦しいシンセサイザーの音色は『Hotline Miami』っぽいかも。『Katana ZERO』のオープニングもこんなだったな。



タガリ:

あれも80年代リバイバルの要素が随所にあるゲームだったな。他にも80年代リバイバルなら『Far Cry 3 Blood Dragon』『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』といったゲームの音楽にも、こういったシンセサイザー・サウンドは登場するな。


ちなみにジョルジオ・モロダーとかタンジェリン・ドリームはマニアックな存在で、このテのテクノ・サウンドの開祖として真っ先に挙がるのはドイツのクラフトワークというバンドだな。シンセサイザーの音作りだけでなく、曲名やジャケット・デザインも含めて、彼らが7~80年代に作り出した「テクノ」のイメージが、今でも影響を与えている。


Far Cry 3: Blood Dragon OST - Blood Dragon Theme

ベースの音に注目


VA-11 Hall-A - Safe Haven


Kraftwerk - Computer Love


ニワカ:

ふーん、たしかにこのクラフトワークの曲は、VA-11 Hall-Aのこの曲に雰囲気が似てるね。ピアノみたいな音のメロディーとか、未来的だけど何か寂しい雰囲気とか。パクリとかじゃなくて、そもそもこの人たちが元祖って感じなのね。


タガリ:

その通り。80年代当時は、クラフトワーク始め、こういったシンセサイザーを全面的に打ち出した未来的な音楽をシンセポップとかテクノポップとも呼んだが、2000年代以降は、そういったサウンドと80年代的なヴィジュアルがセットになったスタイルをシンセウェイヴ(Synthwave)と呼んだりするようだな。ネオンのような色彩感覚だったり、VHSのヒスノイズや映画『トロン』のようなグリッドの地平線がいかにも「80年代風」に感じないかね。


ニワカ:ゲームに使われてる「80年代っぽい曲」は、80年代当時の実際のシンセサイザー音楽より、シンセウェイヴで検索した方がいっぱい出てくるかも。





🐾タヌキの解説:シンセウェイヴとヴェイパーウェイヴ🐾

シンセウェイヴと似たようなジャンルがヴェイパーウェイヴ(Vaporwave)。こちらも2010年代以降盛り上がってきたジャンルで、同様に80年代のイメージ(VHSやカセット、昔のコーラやゲームのCMなど)がノスタルジーとして引用されています。しかしこちらの方がよりアンダーグラウンドで、資本主義とデジタル社会への虚無感といったテーマを、無許可のサンプリングや過剰なエフェクトを施したサウンド、チープなコラージュや翻訳がバグったような不気味なタイトルといった意匠で表現するスタイル。Vaporwaveの世界観をゲーム化した作品には『Broken Reality』などもありますね。


タガリ:

まあ、シンセサイザーとゲーム音楽ということなら、PSGやらFMといった音源の進化だとか、いくらでも話すことはあるがな。今回はここまでとしておこう。



ニワカ:

はー、やっと終わった。


🐾タヌキのさらに深堀り🐾

記事中に登場するクラフトワークについて、もっと知りたい場合は岸野雄一さんのこのnoteがおすすめ。かなりマニアックな内容ながら、ヒップホップを始め現代の音楽とどういう風に繋がってるか、シンセサイザーという楽器の革新性を踏まえて解説されています。


岸野雄一:クラフトワークはいかに後世の音楽に影響を与えたか?https://note.com/kishinoyuichi/n/n594fa38581a8


シンセサイザーそのものの歴史については、ニューヨークの音楽教育プラットフォームSoundflyによるこの動画がコンパクトにまとまっていてオススメです(字幕ON!)。



参考

田中雄二『イエロー・マジック・オーケストラ』

松前公高『シンセサイザーがわかる本』

三田格,野田努(編)『テクノ・ディフィニティヴ 増補改造版』

野田努『ブラック・マシン・ミュージック』


この記事を書いた人

  • 書き手:Shoichiro Kotetsu

  • 編集:ササン三

 
 
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